若宮のいとおぼつか 桐壺05章10
原文 読み 意味
若宮のいとおぼつかなく 露けき中に過ぐしたまふも 心苦しう思さるるを とく参りたまへなど はかばかしうものたまはせやらず むせかへらせたまひつつ かつは人も心弱く見たてまつるらむと 思しつつまぬにしもあらぬ御気色の心苦しさに 承り果てぬやうにてなむ まかではべりぬるとて 御文奉る
01059/難易度:☆☆☆
わかみや/の/いと/おぼつかなく つゆけき/なか/に/すぐし/たまふ/も こころぐるしう/おぼさ/るる/を /く/まゐり/たまえ/など はかばかしう/も/のたまは/せ/やら/ず むせかへら/せ/たまひ/つつ かつは/ひと/も/こころ-よわく/み/たてまつる/らむ/と おぼし-つつま/ぬ/に/しも/あら/ぬ/み-けしき/の/こころぐるしさ/に うけたまはり/はて/ぬ/やう/にて/なむ まかで/はべり/ぬる/とて おほむ-ふみ/たてまつる
若宮が何とも気がかりなまま、露深い里で泣きぬれてお過ごしになるのも、おいたわしくお思いですのに、早くご参内なさいなどと、はっきり口になさりもせず、むせ返ってしまわれながら、方や心弱い帝だと人も見ることだろうねと、はた目が気にならぬでもないご様子がお気の毒で、承り果てぬまままかり越した次第ですと、帝のお手紙をお渡しする。
文構造&係り受け
主語述語と大構造
- とて…奉る 五次元構造
〈[帝]〉〈若宮〉のいとおぼつかなく 露けき中に過ぐしたまふも 心苦しう思さるるを @とく参りたまへなど@ はかばかしうものたまはせやらず むせかへらせたまひつつ かつは@人も心弱く見たてまつるらむと@ 思しつつまぬにしもあらぬ御気色の心苦しさに 承り果てぬやうにてなむまかではべりぬるとて 〈[私=命婦]〉御文奉る
助詞と係り受け
若宮のいとおぼつかなく 露けき中に過ぐしたまふも 心苦しう思さるるを とく参りたまへなど はかばかしうものたまはせやらず むせかへらせたまひつつ かつは人も心弱く見たてまつるらむと 思しつつまぬにしもあらぬ御気色の心苦しさに 承り果てぬやうにてなむ まかではべりぬるとて 御文奉る
この文は仰せ言を賜れた帝の状況説明。視点が命婦に移っている。
「若宮のいとおぼつかなく露けき中に過ぐしたまふも心苦しう」:帝のお気持ちを間接話法で伝える
「心苦しう思さるるを」→「のたまはせやらずむせかへらせたまひ」
「とく参りたまへなど」:帝の言葉を直説法で伝えるというより、帝に代わって命婦が母君に参内を勧めた言葉
「むすかへらせたまひつつ」→「思しつつまぬにしもあらぬ」
「かつは」は直前「つつ」の強調。
「人も心弱く見たてまつるらむ」:帝が周囲にもらした言葉
若宮のいとおぼつかなく 露けき中に過ぐしたまふも 心苦しう思さるるを とく参りたまへなど はかばかしうものたまはせやらず むせかへらせたまひつつ かつは人も心弱く見たてまつるらむと 思しつつまぬにしもあらぬ御気色の心苦しさに 承り果てぬやうにてなむ まかではべりぬるとて 御文奉る
助詞:格助 接助 係助 副助 終助 間助 助動詞
助動詞の識別:るる ず せ らむ ぬ に ぬ ぬ に ぬる
- るる:自発・る・連体形
- ず:打消・ず・連用形→むせかへらせたまひつつ・思しつつまぬにしもあらず
- せ:尊敬・す・連用形/「せたまふ」:最高敬語
- らむ:現在推量・らむ・終止形
- ぬ:打消・ず・連体形
- に:断定・なり・連用形
- ぬ:打消・ず・連体形
- ぬ:完了・ぬ・終止形
- に:断定・なり・連用形
- ぬる:完了・ぬ・連体形
敬語の区別:たまふ 思す 参る たまふ のたまはす せたまふ たてまつる 思しつつむ 御 承る まかづ はべり 御 奉る
若宮のいとおぼつかなく 露けき中に過ぐしたまふも 心苦しう思さるる を とく参りたまへなど はかばかしうものたまはせやらず むせかへらせたまひつつ かつは人も心弱く見たてまつるらむ と 思しつつまぬ に しもあらぬ御気色の心苦しさに 承り果てぬやうに て なむ まかではべりぬる と て 御文奉る
尊敬語 謙譲語 丁寧語
古語探訪
心弱く見たてまつるらむ 01059:天子に求められるイメージ
一国を統べる帝王として気弱な面を示すことはマイナスに働く。
はかばかしう 01059
物事がはきはき進む形容。