その恨みましてやら 桐壺02章14

2021-04-18

原文 読み 意味

その恨みましてやらむ方なし

01020/難易度:☆☆☆

その/うらみ/まして/やらむかた-なし

追われた更衣の恨みはまして晴らしようがございません。

文構造&係り受け

主語述語と大構造

  • やらむ方なし 一次元構造

の〈恨み〉ましてやらむ方なし

助詞と係り受け

その恨みましてやらむ方なし

恨みましてやら方なし

助詞:格助 接助 係助 副助 終助 間助 助動詞

助動詞の識別:

  • :婉曲・む・連体形/他に呼び方がないので通行名の婉曲としたが、この「む」が婉曲を表しているようには思われない。連体用法とでもするのがよいか。
敬語の区別:φ

その恨みましてやらむ方なし

尊敬語 謙譲語 丁寧語

古語探訪

ましてやらむ方なし 01020:迷宮入り

「同じほどそれより下﨟の更衣たちはましてやすからず(同じ位や、それより下位の更衣たちは、まして気が休まらない)/01003」と表現の上で呼応する。桐壺更衣の特殊な死に方(急激な病気の悪化)は、この更衣の呪詛によるものであると、解釈できるような書き方になっている。もちろん弘徽殿の女御へ疑いが向かないための配慮とも考えられる。「下手人は誰か」参照。

〈テキスト〉〈語り〉〈文脈〉の背景

下手人は誰か 01020

後涼殿は清涼殿に隣接した建物。天皇の食事を保管する場所であり、一般の後宮とは違う表だった用立てに使用される公的な部屋である。そこに曹司をもつ更衣とはどんな人物だったろうか。
まず、帝の意思ひとつで部屋を移しえたことから、その更衣の後ろ盾は現在いないか力がないことがわかる。また、正妻格の女御が住む弘徽殿よりもさらに帝に近い場所に住む更衣なのだから、本来なら弘徽殿の嫉妬の対象となるはずである。しかし、そうした事情は説明されていない。嫉妬の対象でない点からすると、帝とは男女の間柄を想定する必要のない存在ということになる。本文にも「更衣の曹司」とあり、この部屋は更衣の上局ではないことも男女の関係を示唆しない。「さぶらひたまふ」と敬語が使われていることから、敬意の対象となっていることがわかる。桐壺の帖で、桐壺以外の更衣が単独で敬語の対象になっているのはここだけである(他は女御更衣などの並記される場合)。ここから想像すると、これは今は系統をことにする(おそらく前天皇関連の)皇女か女王ではないか。かつての斎院斎王だったかもしれない。このあたり、六条の御息所の血縁を感じる。
桐壺更衣の母は娘の死について「人の嫉み深く積もり安からぬこと多くなり添ひはべりつるに横様なるやうにてつひにかくなりはべりぬれば(人の嫉みは積り重なり、心痛はそれに応じて増すばかりで、尋常とは思われぬ有様で、ついにこんなことになってしまっては)」と命婦に語る。「横様」とは不自然死、横死。呪いや毒殺など、普通でない死に方である。また、桐壺更衣に瓜二つである藤壺が後宮に請われた際にも、母后は、「あな恐ろしや春宮の女御のいとさがなくて桐壺の更衣のあらはにはかなくもてなされにし例もゆゆしう(まあ恐ろしい、東宮の母はとても性悪で、桐壺の更衣があきらかにひどい扱いを受けた例も忌まわしいのに)」と、桐壺更衣の横死の主犯格として弘徽殿の女御挙げている。弘徽殿の女御が直接手を下したとは憚れるので、後涼殿の更衣が持ち出されたとも考えられる。真相はやぶの中であろう。

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