かしこき御蔭をば頼 桐壺02章08
原文 読み 意味
かしこき御蔭をば頼みきこえながら 落としめ疵を求めたまふ人は多くわが身はか弱く ものはかなきありさまにて なかなかなるもの思ひをぞしたまふ
01014/難易度:★★☆
かしこき/み-かげ/を-ば/たのみ/きこエ/ながら おとしめ/きず/を/もとめ/たまふ/ひと/は/おほく/わがみ/は/かよわく もの-はかなき/ありさま/にて なかなか/なる/もの-おもひ/を/ぞ/し/たまふ
もったいないご加護をお頼み申し上げながら、おとしめあらさがしをされる方が多く、自身は病身で先が頼めない身そらであり、帝のご寵愛を全うし得ずかえって逃れ得ぬ死を感じ取っておいででした。
文構造&係り受け
主語述語と大構造
- ながら…をぞしたまふ 四次元構造
〈[桐壺更衣]〉かしこき御蔭をば頼みきこえながら 落としめ疵を求めたまふ〈人〉は多く 〈わが身〉はか弱く ものはかなきありさまにて なかなかなるもの思ひをぞしたまふ
助詞と係り受け
かしこき御蔭をば頼みきこえながら 落としめ疵を求めたまふ人は多くわが身はか弱く ものはかなきありさまにて なかなかなるもの思ひをぞしたまふ
- かしこき御蔭をば頼みきこえながら→(落としめ疵を求めたまふ人は多く・わが身はか弱く/並列→ものはかなきありさまなり)+て→なかなかなるもの思ひをぞしたまふ/「もの」は宿命。中傷する人・病気がちなど全体を受けて「ものはかなきありさま」と考える。
「ものはかなきありさま」が原因で、「もの思ひをぞしたまふ」が結果。すなわち、桐壺にのしかかる運命の頼めなさがこの世に対する悲嘆へとつながっている。
かしこき御蔭をば頼みきこえながら 落としめ疵を求めたまふ人は多く わが身はか弱く ものはかなきありさまにて なかなかなるもの思ひをぞしたまふ
助詞:格助 接助 係助 副助 終助 間助 助動詞
助動詞の識別:に
- に:断定・なり・連用形
敬語の区別:御 きこゆ たまふ たまふ
かしこき御蔭を ば頼みきこえながら 落としめ疵を求めたまふ人は多く わが身はか弱く ものはかなきありさまに て なかなかなるもの思ひをぞしたまふ
尊敬語 謙譲語 丁寧語
古語探訪
なかなかなる 01014
中途半端だ、そのくらいならしない方がましだというのが語の意味だが、中途半端で終わるくらいなら帝の愛情を受けるのではなかったと解釈するのは誤りである。死の運命が身近く感じるがゆえに帝との愛を全うできないことが半端なのである。すなわち、光源氏を皇太子につける前にこの世を去ることになるという運命を呪っているのだ。決して帝の愛情を否定しているのではない。この解釈が誤ると桐壺の母に対しても読み誤る。
かしこき 01014
神の領域であり、更衣にとっては犯しがたく避けることができない。
ものはかなき 01014
薄幸の、寿命が短い運命。「もの+はかなし」は頼りないなどの意味とされる一語の形容詞だが、「落としめ疵を求めたまふ人は多く」「わが身はか弱く」などの具体的使用場面の説明により、「もの」は運命という本来の意味を取り戻し、「もの」が「はかなき」様子であると読むのがよい。
ありさま 01014
そのように今ある様子、状況、境遇。
もの思ひ 01014
「もの」とは、人力ではどうにも動かせないもののこと。虚弱体質と周囲の不理解、加えてライバルからの呪詛。位が低いことは非力を意味する。打開できない運命、すなわち死を感じ取っていたのだ。