母后あな恐ろしや春 桐壺09章03
原文 読み 意味
母后 あな恐ろしや 春宮の女御のいとさがなくて 桐壺の更衣のあらはにはかなくもてなされにし例もゆゆしうと思しつつみて すがすがしうも思し立たざりけるほどに 后も亡せたまひぬ
01129/難易度:★☆☆
はは-ぎさき あな/おそろし/や とうぐう-の-にようご/の/いと/さがなく/て きりつぼ-の-かうい/の/あらは/に/はかなく/もてなさ/れ/に/し/ためし/も/ゆゆしう/と/おぼし-つつみ/て すがすがしう/も/おぼし-たた/ざり/ける/ほど/に きさき/も/うせ/たまひ/ぬ
母后は、まあ恐ろしい、東宮の母はとても性悪で桐壺の更衣があんなにはっきりとあっけない最期を迎えるはめになった例も忌まわしいのにと、口をつぐみ前向きに事をお進めにならないうちに、后も亡くなってしまわれた。
文構造&係り受け
主語述語と大構造
- に…も亡せたまひぬ 二次元構造
〈母后〉 @あな恐ろしや 〈春宮の女御の〉いとさがなくて 〈桐壺の更衣の〉あらはにはかなくもてなされにし〈例〉もゆゆしう と@ 思しつつみて すがすがしうも思し立たざりけるほどに 〈后〉も亡せたまひぬ
助詞と係り受け
母后 あな恐ろしや 春宮の女御のいとさがなくて 桐壺の更衣のあらはにはかなくもてなされにし例もゆゆしうと思しつつみて すがすがしうも思し立たざりけるほどに 后も亡せたまひぬ
「后」は「母后」の言い換え。
「いとさがなくて」→「もてなされにし」
母后 あな恐ろしや 春宮の女御のいとさがなくて 桐壺の更衣のあらはにはかなくもてなされにし例もゆゆしうと思しつつみて すがすがしうも思し立たざりけるほどに 后も亡せたまひぬ
助詞:格助 接助 係助 副助 終助 間助 助動詞
助動詞の識別:れ に し ざり ける ぬ
- れ:受身・る・連用形
- に:完了・ぬ・連用形
- し:過去・き・連体形
- ざり:打消・ず・連用形
- ける:呼び起こし・けり・連体形
- ぬ:完了・ぬ・終止形
敬語の区別:思す 思す たまふ
母后 あな恐ろしや 春宮の女御のいとさがなくて 桐壺の更衣のあらはにはかなくもてなされ に し例もゆゆしうと思しつつみて すがすがしうも思し立たざり けるほどに 后も亡せたまひぬ
尊敬語 謙譲語 丁寧語
古語探訪
はかなく 01129:不自然死
取るに足らないとの意味で解釈されているが、「あな恐ろしや」、「ゆゆしう(不吉な)」などの関連から、あきらかにあっけない最期を迎えさせられたのも不吉で、ほどの意味。
思しつつみ 01129:明言するの反対
「慎(つつ)み」と考え警戒すると解釈されているが、感情を押し殺す意味。「ゆゆしう」で止め、後につづく表現を押し殺して口にしなかったことを受ける。はっきり口にしたら、母后の身にも害が及ぶと判断したのである。それほどに弘徽殿の女御の権力は強く、各所にスパイを置いていたのであろう。
さがなく 01129
性格がねじ曲がっている。
あらはに 01129
「はかなくもてなされにし」ことが「あらはなり」。
すがすがしう 01129
停滞なく。
思し立たざりけるほどに 01129
気乗りしない、決心がつかないうちに。