今は誰れも誰れもえ 桐壺08章09
原文 読み 意味
今は誰れも誰れもえ憎みたまはじ 母君なくてだにらうたうしたまへ とて弘徽殿などにも渡らせたまふ御供には やがて御簾の内に入れたてまつりたまふ
01114/難易度:☆☆☆
いま/は/たれ/も/たれ/も/え/にくみ/たまは/じ ははぎみ/なく/て/だに/らうたう/し/たまへ と/て/こうきでん/など/に/も/わたら/せ/たまふ/おほむ-とも/に/は やがて/み-す/の/うち/に/いれ/たてまつり/たまふ
今はもう誰もお憎みなさることが決してない。母君がいないだけでも可愛がってお上げなさいと、弘徽殿などへもお渡りになるお供とされる時には、そのまま御簾の中に入れて差し上げになるのです。
文構造&係り受け
主語述語と大構造
- 憎みたまはじ 一次元構造|に入れたてまつりたまふ 三次元構造
今は〈誰れ〉も〈誰れ〉もえ憎みたまはじ|〈[帝]〉〈母君〉なくてだにらうたうしたまへ とて弘徽殿などにも渡らせたまふ御供には やがて御簾の内に入れたてまつりたまふ
助詞と係り受け
今は誰れも誰れもえ憎みたまはじ 母君なくてだにらうたうしたまへ とて弘徽殿などにも渡らせたまふ御供には やがて御簾の内に入れたてまつりたまふ
今は誰れも誰れもえ憎みたまはじ:「じ」に命令形はないから終止形であり、地の文と考えることになる。命令形を許せば、帝の発言となるが、この文の「誰れも誰れも」と共通する「誰れも誰れも思ひきこえたまへり/01117」は地の文だから、この文も地の文と考えるのがよいだろう。
「とて」→「御簾の内に入れたてまつりたまふ」
「御供には」→「入れたてまつりたまふ」
今は誰れも誰れもえ憎みたまはじ 母君なくてだにらうたうしたまへ とて弘徽殿などにも渡らせたまふ御供には やがて御簾の内に入れたてまつりたまふ
助詞:格助 接助 係助 副助 終助 間助 助動詞
助動詞の識別:じ せ
- じ:打消推量・じ・終止形
- せ:尊敬・す・連用形
敬語の区別:たまふ たまふ せたまふ 御 御 たてまつる たまふ
今は誰れも誰れもえ憎みたまはじ 母君なくて だにらうたうしたまへ とて弘徽殿など に も渡らせたまふ御 供に は やがて御簾の内に入れたてまつりたまふ
尊敬語 謙譲語 丁寧語
古語探訪
じ 01114
二人称に対して否定の勧誘。…しないように。
母君なくてだに 01114
母がいないというだけで大変なのだから。
らうたう 01114
労多しが原義で、いたわる気持ち。
弘徽殿などにも渡らせたまふ 01114
「弘徽殿などにも渡らせたまふ」で文を切るテキストがあるが、「とて」「渡らせたまふ」では意味をなさない。
やがて 01114
そのまま。元服するまでは、光の君は帝の夫人たちの部屋に入ることが許された。これが引いて藤壺との密通につながる。