そのころ高麗人の参 桐壺08章14
原文 読み 意味
そのころ 高麗人の参れる中に かしこき相人ありけるを聞こし召して 宮の内に召さむことは 宇多の帝の御誡めあれば いみじう忍びて この御子を鴻臚館に遣はしたり
01119/難易度:★☆☆
そのころ こまうど/の/まゐれ/る/なか/に かしこき/さうにん/あり/ける/を/きこしめし/て みや/の/うち/に/めさ/む/こと/は うだ-の-みかど/の/おほむ-いましめ/あれ/ば いみじう/しのび/て この/みこ/を/こうろくわん/に/つかはし/たり
その頃、高麗人が来朝した中に人並み外れた人相見が来ていることを帝はお聞きあそばされて、宮中に招くことは宇多天皇の御遺誡があることなので、至極内密に、この御子を鴻臚館(こうろかん)にお遣わしになられたのです。
文構造&係り受け
主語述語と大構造
- を聞こし召して…ば…忍びて…を…に遣はしたり 三次元構造
〈[帝]〉そのころ 〈高麗人〉の参れる中に かしこき〈相人〉ありけるを聞こし召して @宮の内に召さむ〈こと〉は 宇多の帝〈御誡め〉あれば いみじう忍びて@ この御子を鴻臚館に遣はしたり
助詞と係り受け
そのころ 高麗人の参れる中に かしこき相人ありけるを聞こし召して 宮の内に召さむことは 宇多の帝の御誡めあれば いみじう忍びて この御子を鴻臚館に遣はしたり
「召さむこと」を受ける述語は「御誡めあり」だが、ややかみ合わせが悪い。帝まわりの言葉ははっきり述べないきらいがあるので、ここもそう考える。
「いみじう忍びて」について、「忍」ぶ行為は「宇多の帝の御誡め」の帰結、「相人ありけるを聞こし召して」からはつながらない。「聞こし召して」「忍びて」は構造上並列の関係にある。よって色を合わせた。
「そのころ」→「ありけるを」→「聞こし召して」→「遣はしたり」
「宮の内に召さむことは宇多の帝の御誡あれば」→「いみじう忍びて」→「鴻臚館に遣はしたり」
そのころ 高麗人の参れる中に かしこき相人ありけるを聞こし召して 宮の内に召さむことは 宇多の帝の御誡めあれば いみじう忍びて この御子を鴻臚館に遣はしたり
助詞:格助 接助 係助 副助 終助 間助 助動詞
助動詞の識別:る ける む たり
- る:存続・り・連体形
- ける:呼び起こし・けり・連体形
- む:仮定・む・連体形
- たり:完了・たり・終止形
敬語の区別:参る 聞こし召す 召す 御 御
そのころ 高麗人の参れる中に かしこき相人ありける を聞こし召して 宮の内に召さむことは 宇多の帝の御誡めあれば いみじう忍びて この御子を鴻臚館に遣はしたり
尊敬語 謙譲語 丁寧語
古語探訪
かしこき 01119:異能
神意・霊力に対する畏敬の念を表し、そのような能力をもつ人にも使う。この後にも、同じ意味の「かしこき」が「帝かしこき御心に倭相を仰せて/01125」「宿曜の賢き道の人に/01126」と、計三度に渡って現れる。昔物語の伝統を踏まえた語り口になっている。
相人 01119:交渉相手を見定める見識の持ち主
人相を見る人。単なる占い師ではない。外国の使節団の一員であり、交渉相手が信頼に足るか等を見定める能力に長けた人物であり、一国の命運を左右しかねない重要な任務を帯びている。
高麗人 01119
高麗国の人。
宇多の帝の御誡め 01119
宇多天皇が幼少の醍醐天皇へ譲位するに際して与えた心得のひとつ、「外蕃ノ人必ズ召見ス可キ者ハ、簾中ニ在テ之ヲ見ル、直対ス可カラズ」を指すとされる。本文の趣旨と史実にはズレがあるが、帝は直接、外国人と接してはならない、引いては、滅多なことで外国人を宮中に入れてはならないものとして、物語に用いられているようだ。
忍びて 01119
人目を忍んで。帝の子であることを隠し、先入観なくその子の持って生まれた運命を見定めてもらうのが狙いであるから、東宮を擁する右大臣一派に見つからないように、右大弁の子になりすましたことをいう。
鴻臚館 01119
七条朱雀通りにあった外国使節を接待する官邸。