いとかうしも見えじ 桐壺07章07
原文 読み 意味
いとかうしも見えじと思し静むれど さらにえ忍びあへさせたまはず 御覧じ初めし年月のことさへかき集め よろづに思し続けられて 時の間もおぼつかなかりしを かくても月日は経にけり とあさましう思し召さる
01087/難易度:★★★
いと/かう/しも/みエ/じ/と/おぼし/しづむれ/ど さらに/え/しのびあへ/させ/たまは/ず ごらんじ/はじめ/し/としつき/の/こと/さへ/かきあつめ よろづ/に/おぼし/つづけ/られ/て とき/の/ま/も/おぼつかなかり/し/を かく/て/も/つきひ/は/へ/に/けり と/あさましう/おぼしめさ/る
帝は人からそんな風には見られまいと気持ちを静めようとなさるが、少しも我慢おできにならず、あの方と初めて契りを交わした日まで遡り、ありとあらゆる追想に耽られて、往事は束の間もいたたまれなかったが、それでも月日は過ぎ行くものかと、我が身ながらあきれてしまわれるのでした。
文構造&係り受け
主語述語と大構造
- と思し召さる 四次元構造
〈[帝]〉いとかうしも見えじと思し静むれど さらにえ忍びあへさせたまはず 御覧じ初めし年月のことさへかき集め よろづに思し続けられて @時の間もおぼつかなかりしを かくても〈月日〉は経にけりと@ あさましう思し召さる
助詞と係り受け
いとかうしも見えじと思し静むれど さらにえ忍びあへさせたまはず 御覧じ初めし年月のことさへかき集め よろづに思し続けられて 時の間もおぼつかなかりしを かくても月日は経にけり とあさましう思し召さる
「時の間もおぼつかなかりしを」:終助詞/接続助詞(も可)→「かくても〈月日は〉経にけり」
いとかうしも見えじと思し静むれど さらにえ忍びあへさせたまはず 御覧じ初めし年月のことさへかき集め よろづに思し続けられて 時の間もおぼつかなかりしを かくても月日は経にけり とあさましう思し召さる
助詞:格助 接助 係助 副助 終助 間助 助動詞
助動詞の識別:じ させ ず し られ し に けり る
- じ:打消意思・じ・終止形
- させ:尊敬・さす・連用形
- ず:打消・ず・終止形
- し:過去・き・連体形
- られ:自発・らる・連用形
- し:過去・き・連体形
- に:完了・ぬ・連用形
- けり:呼び起こし・けり・終止形
- る:自発・る・終止形
敬語の区別:思す させたまふ 御覧ず 思す 思し召す
いとかうしも見えじ と思し静むれど さらにえ忍びあへさせたまはず 御覧じ初めし年月のことさへかき集め よろづに思し続けられ て 時の間もおぼつかなかりし を かくても月日は経に けり とあさましう思し召さる
尊敬語 謙譲語 丁寧語
古語探訪
いとかうしも見えじ 01087:かうしもは何を受けるか
「かうしも」は母君の歌「(帝は)静心なき/01086」を受ける。通例、桐壺の母君のように「乱りがはし」く見られたくないと解釈するが、一国の帝が更衣の母を基準に行動規範を考えるなどということはあり得ない。第一、母君は取り乱してはいない。前文の注を参照。
ご覧じ初めし 01087:初夜の思い出から
「ご覧ず」は「見る」の尊敬語。「見る」は、一般に女性と交わることをいう。普段見ることが許されない女性を見る機会は、直接的に性行為と結びつく。当時の「(顔を)見る」は、今ならさしずめ、「下着姿か丸裸を見る」に等しい。女性にしても、顔を見られることは、恐怖と性的興奮を覚えたことだろう。