御前の壺前栽のいと 桐壺07章02
原文 読み 意味
御前の壺前栽のいとおもしろき盛りなるを御覧ずるやうにて 忍びやかに 心にくき限りの女房四五人さぶらはせたまひて 御物語せさせたまふなりけり
01082/難易度:☆☆☆
お-まへ/の/つぼせんざい/の/いと/おもしろき/さかり/なる/を/ごらんずる/やう/にて しのびやか/に こころにくき/かぎり/の/にようばう/し/ご-にん/さぶらは/せ/たまひ/て おほむ-ものがたり/せ/させ/たまふ/なり/けり
御前にある坪庭の植込みがとても趣きぶかく盛りになっているさまを鑑賞なさる風にしながら、その実人目を忍んで教養豊かな女房ばかりを四五人を側にお召しになって、あの方の昔語りをなさっておいででした。
文構造&係り受け
主語述語と大構造
- せさせたまふなりけり 三次元構造
〈[帝]〉御前の壺前栽のいとおもしろき盛りなるを御覧ずるやうにて 忍びやかに 心にくき限りの女房四五人さぶらはせたまひて 御物語せさせたまふなりけり
助詞と係り受け
御前の壺前栽のいとおもしろき盛りなるを御覧ずるやうにて 忍びやかに 心にくき限りの女房四五人さぶらはせたまひて 御物語せさせたまふなりけり
「御前の壺前栽の…盛りなる」:A「主格」のB(連体形)
「忍びやかに」→「御物語せさせたまふ」
御前の壺前栽のいとおもしろき盛りなるを御覧ずるやうにて 忍びやかに 心にくき限りの女房四五人さぶらはせたまひて 御物語せさせたまふなりけり
助詞:格助 接助 係助 副助 終助 間助 助動詞
助動詞の識別:なる に せ させ なり けり
- なる:断定・なり・連体形
- に:断定・なり・連用形
- せ:使役・す・連用形
- させ:尊敬・さす・連用形
- なり:断定・なり・連用形
- けり:呼び起こし・けり・終止形
敬語の区別:御 御覧ず さぶらふ たまふ 御 させたまふ
御前の壺前栽のいとおもしろき盛りなる を御覧ずるやうに て 忍びやかに 心にくき限りの女房四五人さぶらはせたまひて 御物語せさせたまふなり けり
尊敬語 謙譲語 丁寧語
古語探訪
壺前裁 01082
壺は坪庭、前裁は植込み。ここは清涼殿と後涼殿との間にある壺庭で、朝餉(あさがれい)の壺ないしは、台盤所(だいばんどころ)の壺。
御覧ずるやうにて 01082
目は坪庭を向いているが、心は物語に向いている。
忍びやかに 01082
ひっそりと。後に語られる弘徽殿の女御がこれみよがしに管弦の会を催すのと対照的である。
心にくき 01082
教養や洗練さが気になる、気にかかる、賞賛にあたる。
御物語せさせたまふ 01082
物語に「御」とあるので、「させ」は使役でなく、「させたまふ」で最高敬語と考える。帝みずから女房相手に更衣の話をなさっていた。女房に話させるのであれば「御」は不要で、「物語させたまふ」となろう。内容はわからないが、おそらくは亡き更衣の話である。