生まれし時より思ふ 桐壺06章05
原文 読み 意味
生まれし時より思ふ心ありし人にて 故大納言いまはとなるまで ただこの人の宮仕への本意 かならず遂げさせたてまつれ 我れ亡くなりぬとて口惜しう思ひくづほるなと 返す返す諌めおかれはべりしかば
01069/難易度:★☆☆
うまれ/し/とき/より/おもふ/こころ/あり/し/ひと/にて こ-だいなごん/いまは/と/なる/まで ただ/この/ひと/の/みやづかへ/の/ほい かならず/とげ/させ/たてまつれ われ/なくなり/ぬ/とて/くちをしう/おもひ/くづほる/な/と かへすがへす/いさめ-おか/れ/はべり/しか/ば
生まれた時から望みをかけてきた娘で、父の亡き大納言が今際(いまわ)の際まで、ただこの人を宮仕えへに出す宿願必ず遂げて差し上げよ。私が亡くなったとて不甲斐なく節を曲げてはならないと、返す返す諌めおかれましたから、
文構造&係り受け
主語述語と大構造
- まで…と…諌めおかれはべりしか(ば) 四次元構造
〈[桐壺更衣]〉生まれし時より思ふ心ありし人にて 〈故大納言〉いまはとなるまでただ @この人の宮仕への本意 かならず遂げさせたてまつれ 〈我れ〉亡くなりぬとて口惜しう思ひくづほるなと@ 返す返す諌めおかれはべりしかば
助詞と係り受け
生まれし時より思ふ心ありし人にて 故大納言いまはとなるまで ただこの人の宮仕への本意 かならず遂げさせたてまつれ 我れ亡くなりぬとて口惜しう思ひくづほるなと 返す返す諌めおかれはべりしかば
「故大納言いまはとなるまでただ」→「返す返す諌めおかれはべりしかば」
「諌めおかれはべりしかば」→「出だし立てはべりし/01070」
生まれし時より思ふ心ありし人にて 故大納言いまはとなるまで ただこの人の宮仕への本意 かならず遂げさせたてまつれ 我れ亡くなりぬとて口惜しう思ひくづほるなと 返す返す諌めおかれはべりしかば
助詞:格助 接助 係助 副助 終助 間助 助動詞
助動詞の識別:し し に させ ぬ れ しか
- し:過去・き・連体形
- に:断定・なり・連用形
- し:過去・き・連体形
- させ:使役・さす・連用形
- ぬ:完了・ぬ・終止形
- れ:尊敬・る・連用形 ※「る」単独で尊敬を表す例は少ないとされる。ただし、「諫めらる」「ものせらる」「仰せらる」など「話す」意味を表す語には付きやすい。この例も「諫めおく」に付いている。
- しか:過去・き・已然形
敬語の区別:たてまつる れ はべり
生まれし時より思ふ心ありし人に て 故大納言いまはとなるまで ただこの人の宮仕への本意 かならず遂げさせたてまつれ 我れ亡くなりぬ と て口惜しう思ひくづほるな と 返す返す諌めおかれはべりしか ば
尊敬語 謙譲語 丁寧語
古語探訪
思ふ心 01069:桐壺の父の野望
娘を宮仕えに出し、帝の寵愛をえて家を復興し、あたうべくば次期帝の外祖父になるという夢。父の野望。
この人の宮仕への本意 01069:桐壺の宿願
「この人」は桐壺更衣。「遂げさせたてまつれ」とあるので、父の思いではない。「宮仕への本意」は、宮仕えにでる宿願でなく、宮仕えを続けて帝の子を儲けたいという宿願である。桐壺は強い個性が見られないので、そうした本意がないようにも思えるが、前世からの契りも深く、決して帝の思いを受けるのみではない。積極的に帝への思いもあるのである。
遂げさせたてまつれ 01069:父の遺言
父の遺言である本意を遂げさせるとは、宮仕えに出すことではなく、宮仕えを続けた結果帝の子を儲ける願いを中途半端に終わらせるなというもの。「させ」は使役で対象は「娘」、「たてまつる」は使役の対象である娘に対する敬意。父の思いではなく、娘の思いを遂げさせるのである。「故大納言の遺言あやまたず宮仕への本意深くものしたりしよろこびは/01088」とあるのも同じで、桐壺が帝に対する一途な思いに対する返礼。