をかしき御贈り物な 桐壺06章14
〈テキスト〉を紡ぐ〈語り〉の技法
moodの助動詞「けり」
「かかる用もやと残したまへりける御装束一領」について。
「りける」について、「完了+過去」と考えるのが一般であろうが、そうすると、過去において「残し終えた」という桐壺更衣の行為そのもの(完了相)に意味の比重がかかることになる。この箇所の意味の比重は更衣が残したものがここにあるという現在にある。だからと言って、「けり」を過去から現在へと続く継続とはできない。更衣はすでに死んでいるのだから、「残し続ける」のはおかしい。「けり」を更衣の行為につくと考えるところに矛盾が生じるのだから、話し手である母の気分を表す法助動詞と考えれば問題は解消される。「娘が残していた(完了相:アスペクト)」を今思い出した状態にある(現在の気分=モード)という構造である。いわゆる「気づき」の「けり」に近いが、「気づき」の「けり」は、アスペクトなのかモードなのか、詠嘆の意味とどう関わるのか等、説明不足の気がする。「けり」は、過去を現在に、遠くのものを近くに、感動を言葉に「呼び起こす」働き、即ち話し手の気持ちを込めるモードの助動詞と考えるのがよいだろう。
耳からの情報伝達;立ち現れる〈モノ〉
語りの対象:母君/桐壺更衣/帝/形見の品
分岐型:A→B→(C→D→E→)F:A→B→F、C→D→E→F
《をかしき御贈り物などあるべき折にもあらねば》A
風情のある贈り物などすべき折りでもないので、
《ただかの御形見にとて》B
ただ更衣を偲んでいただく御形見にと、
《かかる用もやと・残したまへりける・御装束一領御髪上げの調度めく物》C・D・E
こうした用もあろうかと残しておかれた御衣装一揃えと御髪上げの調度類を、
《添へたまふ》F
歌に添えてお出しになる。
- 〈直列型〉→:修飾 #:倒置
- 〈分岐型〉( ):迂回 +:並列
- 〈中断型〉//:挿入 |:文終止・中止法
- 〈反復型〉~AX:Aの言換えX ,AB:Aの同格B
- 〈分配型〉A→B*A→C
A→B:AはBに係る
Bの情報量はAとBの合算〈情報伝達の不可逆性〉
※係り受けは主述関係を含む
※直列型は、全型共通のため単独使用に限った