月は入り方の空清う 桐壺06章11
原文 読み 意味
月は入り方の 空清う澄みわたれるに 風いと涼しくなりて 草むらの虫の声ごゑもよほし顔なるも いと立ち離れにくき草のもとなり
01075/難易度:☆☆☆
つき/は/いりがた/の そら/きよう/すみ-わたれ/る/に かぜ/いと/すずしく/なり/て くさむら/の/むし/の/こゑごゑ/もよほし-がほ/なる/も いと/たち/はなれ/にくき/くさ/の/もと/なり
月は入り方で空は清く澄みわたる時刻に、風はたいそう涼しくなって、叢の虫の鳴き音までが涙を誘う感じがするのも、何とも立ち去りがたい草の宿である。
文構造&係り受け
主語述語と大構造
- 草のもとなり 三次元構造
〈月〉は入り方の 〈空〉清う澄みわたれるに 〈風〉いと涼しくなりて 草むらの〈虫の声ごゑ〉もよほし顔なるも いと立ち離れにくき草のもとなり
助詞と係り受け
月は入り方の 空清う澄みわたれるに 風いと涼しくなりて 草むらの虫の声ごゑもよほし顔なるも いと立ち離れにくき草のもとなり
「いと立ち離れにくき草のもとなり」は「この草のもとはいと立ち離れにくきなり」の倒置。「空」「風」は風雅に満ちた里であり、入り方の月は間もなく明るくなるので、もう少し待って帰ってもよいとの意味。こうした状況が語られることで次の歌が生きてくる。
「月は入り方の空清う澄みわたれる(時刻)」(A「同格」のB連体形):後ろに時刻、刻限などの語が省略されている。なお、「月は入り方に」の異文も存在し、「月は入り方にあり」などの意味となる。
「月は…わたれるに」:状況説明
「風いと涼しくなりて」「草むらの虫の声ごゑもよほし顔なる」:並列関係(本文が「月は入り方に」であれば、「月」「空」「風」「虫の声」が並列となる)→「も」
月は入り方の 空清う澄みわたれるに 風いと涼しくなりて 草むらの虫の声ごゑもよほし顔なるも いと立ち離れにくき草のもとなり
助詞:格助 接助 係助 副助 終助 間助 助動詞
助動詞の識別:る なり
- る:存続・り・連体形
- なり:断定・なり・終止形
敬語の区別:φ
月は入り方の 空清う澄みわたれる に 風いと涼しくなりて 草むらの虫の声ごゑもよほし顔なるも いと立ち離れにくき草のもとなり
尊敬語 謙譲語 丁寧語
古語探訪
もよほし顔 01075:涙を誘う擬人法
声の比喩。聴く者の涙を誘う。以下の二首の歌「鈴虫の声の限りを尽くしても長き夜あかずふる涙かな/01076」「いとどしく虫の音しげき浅茅生に露置き添ふる雲の上人/01077」にひびいてくる。
草のもと 01075
母君の里の言い換え。