やもめ住みなれど人 桐壺05章05

2021-04-18

原文 読み 意味

やもめ住みなれど 人一人の御かしづきに とかくつくろひ立てて めやすきほどにて 過ぐしたまひつる 闇に暮れて臥し沈みたまへるほどに 草も高くなり 野分にいとど荒れたる心地して 月影ばかりぞ 八重葎にも障はらず差し入りたる

01054/難易度:★★☆

やもめ-ずみ/なれ/ど ひと/ひとり/の/おほむ-かしづき/に とかく/つくろひ-たて/て めやすき/ほど/にて すぐし/たまひ/つる やみ/に/くれ/て/ふし/しづみ/たまへ/る/ほど/に くさ/も/たかく/なり のわき/に/いとど/あれ/たる/ここち/し/て つきかげ/ばかり/ぞ やへむぐら/に/も/さはら/ず/さし-いり/たる

母君は夫を亡くしたやもめの身ながら、娘一人の養育のためにとかく邸内は数寄を凝らし、世間に恥ずかしくない暮らしぶりをして来られたましたが、娘を失ってからは悲嘆のあまり床に臥せ塞ぎ込んでしまわれたため、草も伸びほうだいでその上今日の野分で益々荒れた感じがして、月の光だけが八重葎にもさえぎられずに射し込んでおりました。

文構造&係り受け

主語述語と大構造

  • ど…に…て…にて過ぐしたまひつる 二次元構造|に…て…ばかりぞ…差し入りたる 二次元構造

〈[母君]〉やもめ住みなれ 人一人[=桐壺更衣]の御かしづきとかくつくろひ立て めやすきほどにて過ぐしたまひつる闇に暮れて臥し沈みたまへるほど 〈[家の様]〉〈草〉も高くなり野分にいとど荒れたる心地し 〈月影〉ばかりぞ八重葎にも障はらず差し入りたる

助詞と係り受け

やもめ住みなれど 人一人の御かしづきに とかくつくろひ立てて めやすきほどにて 過ぐしたまひつる 闇に暮れて臥し沈みたまへるほどに 草も高くなり 野分にいとど荒れたる心地して 月影ばかりぞ 八重葎にも障はらず差し入りたる

  • やもめ住みなれ→…つくろひ立てて・…過ぐしたまひつる/並列による分岐
  • 人一人の御かしづきにとかくつくろひ立て・めやすきほどにて過ぐしたまひつる/並列
  • 臥し沈みたまへるほど→心地す
  • 心地し→月影ばかりぞ…差し入りたる

「過ぐしたまひつる」と「差し入りたる」ともに連体中止系で対句になっている。の関係性が不明である。「つ」が完了、「たり」が継続。二つの助動詞により、過去と現在の対比が鮮やかになされている。

「やもめ住みなれど…過ぐしたまひつる」「闇に暮れて臥し沈みたまへるほどに…月影ばかりぞ八重葎にも障はらず差し入りたる」:桐壺更衣の死以前と以後の対比(完了「つ」と存続「たり」の使い分けに注意)


「人一人の御かしづきにとかくつくろひ立てて」「めやすきほどにて過ぐしたまひつる」:並列


「草も高くなり」「野分にいとど荒れ」(並列)→「たる心地す」

やもめ住みなれ 人一人御かしづき とかくつくろひ立て めやすきほどにて 過ぐしたまひつる 闇暮れ臥し沈みたまへほど 草高くなり 野分いとど荒れたる心地し 月影ばかり 八重葎障はら差し入りたる

助詞:格助 接助 係助 副助 終助 間助 助動詞

助動詞の識別:なれ つる る たる ず たる

  • なれ:断定・なり・已然形
  • つる:完了・つ・連体形/余韻を伴いながら半ばそこで切れ、半ばは「その家が」と体言を補って以下に続く。連体中止法とでも呼びたい感じ。
  • :存続・り・連体形
  • たる:存続・たり・連体形
  • :打消・ず・連用形
  • たる:存続・たり・連体形/係助詞「ぞ」の結びだが、「つる」と呼応しつつ、連体中止法風に響く。
敬語の区別:御 たまふ たまふ

やもめ住みなれ ど 人一人のかしづきに とかくつくろひ立てて めやすきほどにて 過ぐしたまひつる 闇に暮れて臥し沈みたまへるほどに 草も高くなり 野分にいとど荒れたる心地して 月影ばかり ぞ 八重葎に も障はらず差し入りたる

尊敬語 謙譲語 丁寧語

古語探訪

闇に暮れて 01054:変わるもの

桐壺更衣が亡くなった現在の様子。過去および月影と対比されている。心象風景と外界の境界が解け合っている。

月影ばかり 01054:変わらざるもの

草深くなる前と変わりなく、今も昔も月の光は届く。

やもめ住み 01054

「父の大納言は亡くなりて/01006」とある。

人一人の御かしづき 01054

桐壺更衣のこと。

とかくつくろひ立てて 01054

あれこれと装いを凝らして。

めやすき 01054

見た目が感じよい。洗練されている。

過ぐしたまひつる 01054

お過ごしになってきた。ここまでは桐壺更衣の生前の様子を忍んでいる。

いとど荒れたる 01054

母君の家の庭のようすだが、母君の心象風景にもなっている。

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