もの思ひ知りたまふ 桐壺04章08
原文 読み 意味
もの思ひ知りたまふは 様容貌などのめでたかりしこと 心ばせのなだらかにめやすく憎みがたかりしことなど 今ぞ思し出づる さま悪しき御もてなしゆゑこそ すげなう嫉みたまひしか
01043/難易度:☆☆☆
もの/おもひ-しり/たまふ/は さま/かたち/など/の/めでたかり/し/こと こころばせ/の/なだらか/に/めやすく/にくみ/がたかり/し/こと/など いま/ぞ/おぼし-いづる さま/あしき/おほむ-もてなし/ゆゑ/こそ すげなう/そねみ/たまひ/しか
ものごとをしっかりと判断なさる女御方は、姿や顔立ちの美しかったこと、気立てが穏やかで欠点がなく憎めなかったことなどを今になって懐かしく思い出しになった。正視に耐えない帝のご寵愛ゆえ心なくそねんだりもされたのだろうか。
文構造&係り受け
主語述語と大構造
- は…など…ぞ思し出づる 三次元構造|こそ…嫉みたまひしか 二次元構造
もの思ひ知りたまふ〈[人]〉は [桐壺更衣の]〈様容貌など〉のめでたかりしこと 〈心ばせ〉のなだらかにめやすく憎みがたかりしことなど 今ぞ思し出づる/〈さま〉悪しき御もてなしゆゑこそ 〈[人]〉すげなう嫉みたまひしか/
助詞と係り受け
もの思ひ知りたまふは 様容貌などのめでたかりしこと 心ばせのなだらかにめやすく憎みがたかりしことなど 今ぞ思し出づる さま悪しき御もてなしゆゑこそ すげなう嫉みたまひしか
- もの思ひ知りたまふは→様容貌などのめでたかりしこと・心ばせのなだらかにめやすく憎みがたかりしこと/並列+など今ぞ思し出づる さま悪しき御もてなしゆゑこそすげなう嫉みたまひしか/「もの思ひ知りたまふ」は準体用法、後に「人」などを補うとわかりやすい。
「さま悪しき御もてなしゆゑこそすげなう嫉みたまひしか」(挿入):「こそ…已然形」が挿入の目印。生前、桐壺更衣に対して思いやりに欠けた理由を語り手が推測する
もの思ひ知りたまふは 様容貌などのめでたかりしこと 心ばせのなだらかにめやすく憎みがたかりしことなど 今ぞ思し出づる さま悪しき御もてなしゆゑこそ すげなう嫉みたまひしか
助詞:格助 接助 係助 副助 終助 間助 助動詞
助動詞の識別:し し しか
- し:過去・き・連体形
- し:過去・き・連体形
- しか:過去・き・已然形/係り助詞「こそ」の結び。「こそ…已然形」は挿入の目印
敬語の区別:たまふ 思し出づ 御 たまふ
もの思ひ知りたまふは 様容貌など のめでたかりしこと 心ばせのなだらかにめやすく憎みがたかりしことなど 今ぞ思し出づる さま悪しき御もてなしゆゑこそ すげなう嫉みたまひしか
尊敬語 謙譲語 丁寧語
古語探訪
もの思ひ知りたまふ 01043:分別
「ものの心知りたまふ人/01023」が「ものの本質を見抜く力がある人」即ち、政治の中枢で活躍している公卿たちであったが、ここはそれとは別で、ものごとを感情に左右されずに理解できる人たち。この「もの」は客観的事実で、本来人の情に左右されないはずだが、利己的な感情から歪めて見てしまうものだが、そうでない人たちがいたことになる。具体的には、桐壺更衣の様子や顔を見ることができ、敬語が使われていることから、桐壺更衣を敵視せず、中立の立場にあった女御たち。
さま悪しき御もてなし 01043
「ある時には大殿籠もり過ぐして、やがてさぶらはせたまひなど(時には共寝したまま起きそびれ、そのまま側仕えをおさせになるなど)/01012」とある。政治は朝から昼前まで行われるのが、帝として理想とされているので、政治を投げ出したことをも意味した。
めでたかりし 01043
愛でずにはいられない。
心ばせ 01043
思いやり。心がそちらに馳せてゆく。
めやすく 01043
見た目に難がない。消極的評価。安心して見ていられる。
すげなう 01043
「す」は接頭語で「気がない」こと。本来なら味方になっていい立ち場にいながら、非協力的になること。類語は「つれなし」。
嫉みたまひしか 01043
本来が中立的立ち場なので、桐壺更衣に対して悪意を抱く必要はないが、帝の政治離れを引き起こす原因となることから快く思っていなかった。これは弘徽殿の女御など、東宮位を争うという身びいきから桐壺を敵視した立ち場とは自ずと違いがある。