この御子生まれたま 桐壺02章06
原文 読み 意味
この御子生まれたまひて後は いと心ことに思ほしおきてたれば 坊にもようせずはこの御子の居たまふべきなめりと 一の皇子の女御は思し疑へり
01012/難易度:☆☆☆
この/みこ/うまれ/たまひ/て/のち/は /と/こころ/こと/に/おもほし-おき/て/たれ/ば ばう/に/も/ようせずは/この/みこ/の/ゐ/たまふ/べき/なめり/と いち-の-みこ/の/にようご/は/おぼし-うたがへ/り
この御子がお生れになってからは正妻のように格別の計らいをなされたために、皇太子へもことによると、この御子がお立ちになるやもと第一皇子の母の女御は危惧なさっておられました。
文構造&係り受け
主語述語と大構造
- ば…と…は思し疑へり 二次元構造
この〈御子〉生まれたまひて後は 〈[帝]〉いと心ことに思ほしおきてたれば @坊にもようせずはこの〈御子〉の居たまふべきなめり@と 一の皇子の〈女御〉は思し疑へり
助詞と係り受け
この御子生まれたまひて後は いと心ことに思ほしおきてたれば 〈坊にもようせずはこの御子の居たまふべきなめり〉と 一の皇子の女御は思し疑へり
- この御子生まれたまひて後は→いと心ことに思ほしおきてたり+ば→〈坊にもようせずは→この御子の居たまふべきなめり〉(心内語)と一の皇子の女御は思し疑へり
この御子生まれたまひて後は いと心ことに思ほしおきてたれば 坊にもようせずはこの御子の居たまふべきなめりと 一の皇子の女御は思し疑へり
助詞:格助 接助 係助 副助 終助 間助 助動詞
助動詞の識別:たれ ず べき な めり り
- たれ:存続・たり・已然形
- ず:打消・ず・連用形/動詞・形容詞の「連用形」+「は」=順接仮定条件(…の場合は)
- べき:当然(推量)・連体形
- な:断定・なり・終止形「なり」の「り」が欠落(大野晋説)/連体形「なる」の「る」の欠落(通行の説)「なめり」「ななり」など
- めり:推量・めり・終止形/引用文につく「と」は終止形接続
- り:存続・り・終止形
敬語の区別:御 たまふ 思ほしおく 御 たまふ 思し疑ふ
この御子生まれたまひて後は いと心ことに思ほしおきてたれば 坊にもようせずはこの御子の居たまふべきなめりと 一の皇子の女御は思し疑へり
尊敬語 謙譲語 丁寧語
古語探訪
心ことに 01012
特別に。具体的には、弘徽殿の女御に以下の疑念を抱かすのであるから、第一夫人(最初に入内した夫人)を差し置いて、正妻扱いをしたと考えられる。なお、正妻はまだ決定されていない。女御の中から正妻が一人ないし二人(皇后と中宮、両者に優劣はない)選ばれることになっている。皇太子が決まれば、公的な手続きを踏んだ上で、自ずとその母親が正妻となる。「心ことに思ほしおく」は「おのづから軽き方にも見えしを/01011」を受けるので、「思ほしおく」の対象は桐壺更衣であって、御子と考えるのは誤りである。
思ほしおき 01012
具体的には正妻のように扱うこと。
坊 01012
皇太子のこと。皇太子の役所を東宮坊といい、転じて坊のみで皇太子をさす。
ようせずは 01012
悪くすると、ひょっとすると。
この御子 01012
光の君。
居たまふ 01012
東宮位におつきになる。
〈テキスト〉〈語り〉〈文脈〉の背景
分岐その四 01012
「坊にもようせずはこの御子の居たまふべきなめり」は「と…思し疑へり」という表現から弘徽殿の心中語であることがわかる。心中語や会話の前後は一般に分岐が起こる。