事にふれて数知らず 桐壺02章13
原文 読み 意味
事にふれて数知らず苦しきことのみまされば いといたう思ひわびたるを いとどあはれと御覧じて 後涼殿にもとよりさぶらひたまふ更衣の曹司を 他に移させたまひて上局に賜はす
01019/難易度:☆☆☆
こと/に/ふれ/て/かず/しら/ず/くるしき/こと/のみ/まされ/ば いと/いたう/おもひ-わび/たる/を いとど/あはれ/と/ごらんじ/て こうらうでん/に/もとより/さぶらひ/たまふ/かうい/の/ざうし/を ほか/に/うつさ/せ/たまひ/て うへつぼね/に/たまは/す
ことに触れ数しらず苦しいことばかりがいや増すので、それはもうひどく思い悩んでいらっしゃるのを、帝はますます愛情深くお思いになって、後涼殿に元からお仕えである更衣を、よそにお移しになり、空いた部屋を桐壺の上局として下賜なさいました。
文構造&係り受け
主語述語と大構造
- に賜はす 四次元構造
〈[桐壺更衣]〉事にふれて数知らず〈苦しきこと〉のみまされば いといたう思ひわびたるを 〈[帝]〉いとど @ あはれ @と御覧じて 後涼殿にもとよりさぶらひたまふ更衣の曹司を 他に移させたまひて上局に賜はす
助詞と係り受け
事にふれて数知らず苦しきことのみまされば いといたう思ひわびたるを いとど〈あはれ〉と御覧じて 後涼殿にもとよりさぶらひたまふ更衣の曹司を 他に移させたまひて上局に賜はす
- 事にふれて数知らず苦しきことのみまされば→いといたう思ひわびたり+を→いとど〈あはれ〉と御覧ず+て→後涼殿にもとよりさぶらひたまふ更衣の曹司を移させたまふ+て→上局に賜はす
更衣の曹司を他に移させたまひて上局に賜はす:後涼殿から更衣の曹司を他に移して、空いた後涼殿を桐壺の上局としてお与えになった。
事にふれて数知らず苦しきことのみまされば いといたう思ひわびたるを いとどあはれと御覧じて 後涼殿にもとよりさぶらひ たまふ更衣の曹司を 他に移させたまひて上局に賜はす
助詞:格助 接助 係助 副助 終助 間助 助動詞
助動詞の識別:ず たる せ
- ず:打消・ず・連用形→まさる
- たる:存続・たり・連体形
- せ:尊敬・す・連用形/「せたまふ」:最高敬語
敬語の区別:御覧ず さぶらふ たまふ たまふ 賜はす
事にふれて数知らず苦しきことのみまされば いといたう思ひわびたる を いとどあはれと御覧じて 後涼殿にもとよりさぶらひたまふ更衣の曹司を 他に移させたまひて上局に賜はす
尊敬語 謙譲語 丁寧語
- 賜はす:「賜ふ」と「す」の合成語で一語と考えても二語と考えても良い。「す」は尊敬説・使役説がある。
古語探訪
事 01019
「もの」が運命・決まり・霊的存在など人の力の及ばない存在であるのに対して、「事」は人と人との間に発生する事態。従って、解決不能というわけではないが、あまりにも敵が多く実際には解決する術を失っていた。帝の寵愛を受けて悦びはあるものの、それより遙かに苦しみが勝った。
上局 01019
普段住んでいる局(下局、里の局とも)に対して、帝がおられる清涼殿に上がる際の清涼殿に隣接する控えの間。これが与えられるのも特別待遇である。なお、もとの桐壺は局として継続使用されるゆえ、更衣の呼び名は桐壺のままである。桐壺更衣の死後、成長した光の君は、内裏に泊まる際には、この局を自分の部屋として使用する。
わびたる 01019
自分の非力さを今更ながらに思い知ること。
あはれ 01019
愛情・哀れみなどから躍起される強い心の揺れ。
後涼殿 01019
清涼殿の西隣の御殿。
曹司 01019
局と同じく部屋。