源氏の君は主上の常 桐壺10章33

2021-04-18

原文 読み 意味

源氏の君は 主上の常に召しまつはせば 心安く里住みもえしたまはず 心のうちには ただ藤壺の御ありさまを 類なしと思ひきこえて さやうならむ人をこそ見め 似る人なくもおはしけるかな 大殿の君 いとをかしげにかしづかれたる人とは見ゆれど 心にもつかずおぼえたまひて 幼きほどの心一つにかかりて いと苦しきまでぞおはしける

01173/難易度:★★☆

げんじ-の-きみ/は うへ/の/つね/に/めし-まつはせ/ば こころ-やすく/さとずみ/も/え/し/たまは/ず こころ/の/うち/に/は ただ/ふぢつぼ/の/おほむ-ありさま/を たぐひなし/と/おもひ/きこエ/て さやう/なら/む/ひと/を/こそ/み/め にる/ひと/なく/も/おはし/ける/かな おほいどの-の-きみ いと/をかしげ/に/かしづか/れ/たる/ひと/と/は/みゆれ/ど こころ/に/も/つか/ず/おぼエ/たまひ/て をさなき/ほど/の/こころ/ひと-つ/に/かかり/て いと/くるしき/まで/ぞ/おはし/ける

源氏の君は帝がいつも側にお召し置きになるので、心のどかに里家でお住みになることもなく、心中ではただ藤壺のお姿を最上であるとお慕い申し上げて、そうした方とこそ契りを結びたいが、似る人さえもいらっしゃらないものだ、左大臣の娘は、とても大切に育てられた人とは御覧になりながらも情が移りそうにないとお感じになって、幼ない心は藤壺のことのみにかかり切りひどく苦しいまで思い詰めておられた。

文構造&係り受け

主語述語と大構造

  • にかかりて…までぞおはしける 四次元構造

〈源氏の君〉は 〈主上〉の常に召しまつはせ 心安く里住みもえしたまはず 心のうちには ただ藤壺の御ありさま 類なしと思ひきこえて @/さやうならむ人をこそ見め 〈似る人〉なくもおはしけるかな/ 大殿の君 いとをかしげにかしづかれたる人とは見ゆれ 心にもつかずおぼえたまひて 幼きほどの心一つにかかりて いと苦しきまでぞおはしける

助詞と係り受け

源氏の君は 主上の常に召しまつはせば 心安く里住みもえしたまはず 心のうちには ただ藤壺の御ありさまを 類なしと思ひきこえて さやうならむ人をこそ見め 似る人なくもおはしけるかな 大殿の君 いとをかしげにかしづかれたる人とは見ゆれど 心にもつかずおぼえたまひて 幼きほどの心一つにかかりて いと苦しきまでぞおはしける

「心にもつかずおぼえたまひて」が「類なしと思ひきこえて」の言い換え、これによって分岐が終わる。

「思ひきこえて」→「心一つにかかりて」→「いと苦しきまでぞおはしける」


「さやうならむ人をこそ見め似る人なくもおはしけるかな」:「ただ藤壺の御ありさまを類なし」が「思ひきこえて」の間接法での表現で、これを直説法風に語り手が光源氏の立ち場から表現したもの。(「さやうならむ」は前の文章「御ありさま類いなき藤壺」を受けるのであって、光源氏の言葉ではない。あくまで光源氏の言葉のように語り手が語っているのだ)


「見む」(能動)と「見ゆ」(受動)を対比させようとの意図により言語空間が凝縮され、地の文と心中語が切れ目なくつづいた。これは散文でなく韻文的な技法である。「見め」:「見る」未然形+「む」の已然形/「見ゆれ」:「見ゆ」の已然形


「大殿の君、いとをかしげにかしづかれたる(人)」:間接法表現である「心にもつかずおぼえたまひ」を直説法風に語り手が光源氏の立ち場から表現したもの。これは光源氏の言葉を直接引いたものかもしれない。

源氏 主上常に召しまつはせ 心安く里住みえしたまは 心うち ただ藤壺御ありさま 類なし思ひきこえ さやうならこそ 似る人なくおはしけるかな 大殿君 いとをかしげにかしづかれたる見ゆれ 心つかおぼえたまひ 幼きほど一つかかり いと苦しきまでおはしける

助詞:格助 接助 係助 副助 終助 間助 助動詞

助動詞の識別:ず む め ける たる ず ける

  • :打消・ず・連用形
  • :仮定・む・連体形
  • :意思・む・已然形(「こそ」の結び)
  • ける:呼び起こし・けり・連体形
  • たる:存続・たり・連体形
  • :打消・ず・連用形
  • ける:呼び起こし・けり・連体形(「ぞ」の結び)
敬語の区別:召す たまふ  きこゆ おはす たまふ おはす

源氏の君は 主上の常に召しまつはせば 心安く里住みもえしたまはず 心のうちに は ただ藤壺のありさまを 類なしと思ひきこえて さやうなら む人を こそ見め 似る人なくもおはしける かな 大殿の君 いとをかしげにかしづかれたる人と は見ゆれど 心に もつかずおぼえたまひて 幼きほどの一つにかかりて いと苦しきまで ぞおはしける

尊敬語 謙譲語 丁寧語

古語探訪

里住み 01173:左大臣邸か母の実家か

左大臣邸で過ごすこととされているが、左大臣邸で心安くすることはないので、母の実家であろう。この後、修理職・内匠寮に宣旨が下り、比類ない立派な邸宅に生まれ変わる。

心安く 01173

心安らかに。悩みや心配のない状態。成人したために、帝の側にいても、これまでのように夫人の元に出入りできない。この埋められぬ距離が悩ましさの種となる。

見め 01173

妻にしたいの意味。

大殿の君 01173

葵の上。

心にもつかず 01173

「心につく」は愛情が芽生える。

一つにかかり 01173

幼い心が藤壺のことだけにかかり切りになる。

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