引入の大臣の皇女腹 桐壺10章13
原文 読み 意味
引入の大臣の皇女腹に ただ一人かしづきたまふ御女 春宮よりも御けしきあるを 思しわづらふことありける この君に奉らむの御心なりけり
01153/難易度:★☆☆
ひきいれ-の-おとど/の/みこ-ばら/に ただ/ひとり/かしづき/たまふ/おほむ-むすめ とうぐう/より/も/み-けしき/ある/を /おぼし-わづらふ/こと/あり/ける この/きみ/に/たてまつら/む/の/み-こころ/なり/けり
引入れの大臣には皇女との間にただ一人慈しんでおられる愛娘がいて、東宮からもご所望がありながら応諾もならず悩んでおられたのは、この君に差し上げようとの思惑があおりだったのです。
文構造&係り受け
主語述語と大構造
- の御心なりけり 五次元構造
〈引入の大臣〉の皇女腹にただ一人かしづきたまふ御女 @春宮よりも〈御けしき〉あるを 〈思しわづらふ〈こと〉ありける〉 この君に奉らむの御心なりけり@
助詞と係り受け
引入の大臣の皇女腹に ただ一人かしづきたまふ御女 春宮よりも御けしきあるを 思しわづらふことありける この君に奉らむの御心なりけり
「思しわづらふことありける」とその後との関係は明確ではない。連体中止とも考えられるが、意味的にも「御心なりけり」の主語と考えるのがよいと思う。「公事に仕うまつれるおろそかなることもぞ/01144」も同じ。
※「01153」「01154」は元服儀式より前のエピソードの挿入
「引入の大臣の皇女腹にただ一人かしづきたまふ御女」(「大臣の御女」A+「皇女腹なる御女」B+「ただ一人かしづきたまふ御娘」Cが原型):Aは共通項「御女」が後ろに行って「大臣の…御女」と変化。Bも断定「なり」の連体形が並列(同格)を表す連用形「に」に転じて「皇女腹に…御女」と変化。Cは形は変わらないが、Aとむすびつくことで、「大臣の」が意味上の主語になる。よって連体格であった「の」は主格を表すことになる。/「皇女腹に」の「に」(断定の「なり」の連用形)を連用法と考えると「かしづきたまふ」にかかることになるが、意味上自然ではない。
「かしづきたまふ御女」→「内裏にも御けしき賜はらせたまへりけれ/01154」
「春宮よりも御けしきあるを思しわづらふことありけるこの君に奉らむの御心なりけり」(挿入):御女の説明
「この君に奉らむの御心なりけり」:春宮の申し出を断ったことに対する、語り手による理由の推測
引入の大臣の皇女腹に ただ一人かしづきたまふ御女 春宮よりも御けしきあるを 思しわづらふことありける この君に奉らむの御心なりけり
助詞:格助 接助 係助 副助 終助 間助 助動詞
助動詞の識別:ける む なり けり
- ける:呼び起こし・けり・連体形
- む:意思・む・連体形or終止形(「の」は名詞を受けるので準体言と考えれば連体形となるが、一文でまとまっていると考えると終止形とも考え得る)
- なり:断定・なり・連用形
- けり:呼び起こし・けり・終止形
敬語の区別:たまふ 御 思す 奉る 御
引入の大臣の皇女腹に ただ一人かしづきたまふ御女 春宮より も御けしきあるを 思しわづらふことありける この君に奉らむ の御心なり けり
尊敬語 謙譲語 丁寧語
古語探訪
思しわづらふ 01153:東宮よりも光源氏を婿に選んだ理由
思い悩む。すぐ後に、「この君に奉らむの御心なりけり」と説明される。娘の結婚相手として、東宮よりも光源氏を選んだ根拠はなんだろう。帝の外祖父になることこそが公卿にとって最大の願いであるはずなのに。ひとつには、東宮が対立勢力である右大臣を外祖父にもつので、仮に娘に東宮の子が生まれても、東宮が帝位にいる間は、右大臣方を栄えさせる結果となる。今ひとつの理由としては、「ものの心知りたまふ人はかかる人も世に出でおはするものなりけりとあさましきまで目をおどろかしたまふ(ものの本質を見抜いておられるお方は、こんな方も世に生れて来られるものかと、常軌を超えた相に信じがたいと目を瞠はっておられました)023」とあった。右大臣は光の君の人相に、常識でははかれない将来を感じ取り、この人にかけようとの選択をしたものと思われる。
御けしき 01153
入内させよとの要請。