同じほどそれより下 桐壺01章03
原文 読み 意味
同じほどそれより下﨟の更衣たちは ましてやすからず
01003/難易度:★★☆
おなじ/ほど/それ/より/げらふ/の/かうい-たち/は まして/やすから/ず
同じ位やそれより下位の更衣たちは、まして気が休まらず…。
文構造&係り受け
主語述語と大構造
- は…やすからず 一次元構造
〈同じほどそれより下臈の更衣たち〉は ましてやすからず
助詞と係り受け
同じほどそれより下﨟の更衣たちは ましてやすからず
- 同じほど・それより下﨟の更衣たち/並列+は→ましてやすからず
ましてやすからず:連用法(結びは省略)
「やすからず」どうしたかという具体的動作を言い憚ったのである。通例は、終止形による文の終止と考えるが、それではドラマ性が減じる。「やすからず:闇の世界」を参照のこと。
同じほどそれより下臈の更衣たちは ましてやすからず
助詞:格助 接助 係助 副助 終助 間助 助動詞
助動詞の識別:ず
- ず:打消・ず・連用形→結びの省略(通例は終止形と考え、ここで文を切る)
敬語の区別:φ
同じほどそれより下臈の更衣たちは ましてやすからず
尊敬語 謙譲語 丁寧語
古語探訪
やすからず 01003:闇の世界
身分の低い更衣ふぜいに出し抜かれた女御たちが心穏やかではないのはわかる。しかし、登場人物としてさして意味のない更衣たちの気持ちが穏やかであろうがなかろうが、どうでもよいはずなのに、この一文を挿入した狙いは何か、なぜ身分の低い更衣たちに対して「まして」が使われているのかを、読み取る必要がある。 「やすからず」を終止形と考えると、更衣たちが気分を害したという程度で事件が片付いてしまう。 女御たちは身分が高いから、表立っておとしめそねむことができ、それである程度ガス抜きができたであろう。しかし、同格やそれ以下の位の更衣たちは言葉による攻撃もままならず、気持ちのやり場がなかったのである。そこで、直接行動に打って出た。その具体的描写はここでは省略されている。省略によりドラマ性を高めているのである。その点を具体的に描いているくだりが、「打橋渡殿のここかしこの道にあやしきわざをしつつ/01017」や、「馬道の戸を鎖しこめこなたかなた心を合はせてはしたなめわづらはせたまふ/01018」である。前者は敬語がないことから更衣たちの行動とみてよく、後者は女御が主体であるが使役の「せ」が使用されているので、やはり実際の行動をとったのは「同じほどそれより下臈の更衣たち」(四位五位の更衣たち)であった。ただし、「あやしきわざ」にしろ「馬道の戸の鎖しこめ」にしろ、通常の解釈では、たちの悪いいやがらせの範疇を超えるものではない。そのため「ましてやすからず」で結語を省略した理由もわからない。「あやしきわざ」の狙いは赤不浄により帝との性行為を阻止することであり、「馬道の戸の鎖しこめ」は懐妊した御子の難産死産を図った呪詛である。それゆえ、口をはばかられたのである。詳細は/01017、/01018に譲る。結論として、「ましてやすからず」は文の終止と考えず、結語が省略された連用法と読む方がドラマ性が高まるのではなかろうか。ただし、こうした読みに正解はない。よりよい読み方を模索し続けるしかないのだ。
ほど 01003
位、身分。本来は程度を指すので幅があり、同質。それに対して「際」は同じ身分の意味でも、区別することに軸足がある表現。
下﨟 01003
本来は授戒後まだ日の浅い僧侶を指す語で、宮廷生活にも比喩的になぞられられることがあったのだろう。年季が浅く、それゆえ地位も低く重きを置かれない身分をいう。桐壺更衣は、死後に位が一等上がり、従三位という女御並みの位を追贈されるので、生前は四位相当と考えられる。「下﨟」は位では五位ということになる。