心ざし深からむ男を 067 ★★☆

2020-09-22★★☆:文の構造を捉え直す02 帚木,反復型

帚木 原文 かな書き 現代語訳 第5章06

心ざし深からむ男をおきて 見る目の前につらきことありとも 人の心を見知らぬやうに逃げ隠れて 人をまどはし心を見むとするほどに 長き世のもの思ひになる いとあぢきなきことなり

ころざし/ふかから/む/をとこ/を/おき/て みる/め/の/まへ/に/つらき/こと/あり/とも ひと/の/こころ/を/みしら/ぬ/やう/に/にげ-かくれ/て ひと/を/まどはし/こころ/を/み/む/と/する/ほど/に ながき/よ/の/もの-おもひ/に/なる いと/あぢきなき/こと/なり

(左馬頭)愛情深い夫を捨ておき、当面浮気など恨めしいことがあるにしても、夫の気持ちを知りもせぬように逃げ隠れて夫をまどわせ、本心を試してやろとしているうちに一、生の後悔を招くことになる、まことに愚かしいことです。

解釈の決め手

見る目の前につらきことありとも

「夫の浮気などつらいことがあってもそれに対処せずに(逃げ隠れ)」と解釈されている。しかし、この表現は「長き世のもの思ひ」と対になっており、現実の厳しさにさらされながら、愛情深い夫の心を知らぬように逃げ隠れ、その気持ちを試そうとしているうちに、一生取り返しのつかないことになるということである。「対処せずに」などの原文にない言葉を補っている時点で、その解釈は怪しいと考えたほうがよい。だいたい、愛情深い夫と言いながら、浮気をしていたのでは、妻の行動を批判できないだろう。

ここがPoint

心を見る

この後、この女の話には「心」と「見る」が頻出し、キーワードになっている。実際に相手の男をよく見ないで、相手の愛情を抽象的に求めるところに問題の本質がある。

帚木 注釈 第5章06

心ざし 02-066

心が向かう方向、即ち、妻に対する愛情、誠意。

おきて 02-066

ほったらかしにして、距離をおいて。

人の心 02-066

人の情、夫婦の情愛。

心をも見む 02-066

相手の気持ちを試す。

長き世のもの思ひ 02-066

生涯に渡る痛恨事。具体的には仏門に入って還俗できなくなること。

あぢきなき 02-066

人の道にそむく行為に対していう。

語りの対象&構造型

対象:発言者(左馬頭)

心ざし深からむ男 をおきて・見る目の前につらきことありとも・人の心を見知らぬやうに》A・B・C
愛情深い夫を捨ておいて、現実を目の当たりにしてつらいことがあろうと、夫のやさしさをまるで見知らぬふりして、


逃げ隠れて・人をまどはし を見むとするほどに・長き世のもの思ひになる》D・E・F
逃げ隠れて夫をまどわせ、本心を試してやろとしているうちに、一生涯の痛恨事を招く、


いとあぢきなきことなり》G
まことに愚かしいことです。

分岐型・反復型:[A<(B<C<)~AD<E<F<G]:A<~AD<E<F<G、B<C<~AD

 A<B:AはBに係る Bの情報量はAとBの合算〈情報伝達の不可逆性〉
 ※係り受けは主述関係を含む


〈直列型〉<:直進 :倒置 〈分岐型〉( ):迂回 +:並列
〈中断型〉φ:独立文 [ ]:挿入 :中止法


〈反復型〉~AX:Aの置換X A[,B]:Aの同格B 〈分配型〉A<B|*A<C ※直列型以外は複数登録、直列型は単独使用

情報の階層&係り受け

構文:あぢきなきことなり/三次

〈[女]〉心ざし深からむ男をおきて 見る目の前に〈つらきこと〉ありとも 人の心を見知らぬやうに  逃げ隠れて 人をまどはしを見むとするほど 長き世のもの思ひになる いとあぢきなきことなり

主〉述:一朱 二緑 三青 四橙 五紫 六水 [ ]: 補 /: 挿入 :分岐

係り受け&主語述語

「心ざし深からむ男を…いとあぢきなきことなり」:挿入