また元はやむごとな 033
帚木 原文 かな書き 現代語訳 第3章02/源氏物語
また元はやむごとなき筋なれど 世に経るたづき少なく 時世に移ろひておぼえ衰へぬれば 心は心として こと足らず悪ろびたることども出でくるわざなめれば とりどりにことわりて中の品にぞ置くべき
また/もと/は/やむごとなき/すぢ/なれ/ど よ/に/ふる/たづき/すくなく ときよ/に/うつろひ/て/おぼエ/おとろへ/ぬれ/ば こころ/は/こころ/と/し/て こと/たら/ず/わろび/たる/こと-ども/いでくる/わざ/な/めれ/ば とりどり/に/ことわり/て/なかのしな/に/ぞ/おく/べき
エ:や行の「え」
(頭中将)またもとは最上の血筋なのに、世を渡る方途に欠け、時勢に押されて名望も衰えてしまうと、気位は以前のままでも、暮らしは事欠き意にそまぬことどもが起きるものなのでしょうから、各々判別して中の位に置くのが応分でしょう。
帚木 注釈 第3章02
やむごとなき 02-033
最上の。
たづき 02-033
方策・手段。
時世に移ろひ 02-033
時勢に負ける。
おぼへ 02-033
世の中の評判。帝からの評判ならば「御おぼへ」となる。
心は心として 02-033
当人の心持は昔と変わらぬながら。精神的文化的側面に問題がなくとも。心の面はさておくとしても。
悪ろびたること 02-033
不如意なこと。
わざ 02-033
そうした傾向が強いこと。運命。
めれ 02-033
推量。断言を弱めている。
とりどりに 02-033
成り上がり者も落ちぶれ者もそれぞれ。
ことわりて 02-033
判別して。
附録:耳からの情報処理(語りの対象 & 構造型)
語りの対象:没落貴族/成り上がり者・没落貴族/世の人(発言者)
《また元はやむごとなき筋なれど》A
またもとは最上の血筋なのに、
《世に経るたづき少なく・時世に移ろひておぼえ衰へぬれば》B・C
世を渡る方途に欠け、時勢に押されて名望も衰えてしまうと、
《心は心として》D
気位は以前のままでも、
《こと足らず・悪ろびたることども出でくるわざなめれば》E・F
暮らしは事欠き意にそまぬことどもが起きるものなのでしょうから、
《とりどりにことわりて・中の品にぞ置くべき》H・I
各々判別して中の位に置くのが応分でしょう。
分岐型:A<B<C<(D<)E+F<(H<)I:A<B<C<E+F<I、D<E+F、H<I
A<B:AはBに係る Bの情報量はAとBの合算〈情報伝達の不可逆性〉
※係り受けは主述関係を含む
〈直列型〉<:直進 #:倒置 〈分岐型〉( ):迂回 +:並列
〈中断型〉φ:独立文 [ ]:挿入 |:中止法
〈反復型〉~AX:Aの置換X A[,B]:Aの同格B 〈分配型〉A<B|*A<C ※直列型以外は複数登録、直列型は単独使用
大構造(にことわりて…にぞ置くべき/五次)& 係り受け
@〈[娘の父]〉また元はやむごとなき筋なれど 世に経る〈たづき〉少なく 時世に移ろひて〈おぼえ〉衰へぬれば @心は心として@ 〈こと〉足らず 悪ろびたることども出でくるわざなめれば@ 〈[世の人]〉とりどりにことわりて中の品にぞ置くべき
〈主〉述:一朱二緑三青四橙五紫六水 [ ]: 補 /: 挿入 @・@・@・@:分岐
光源氏の質問「元の品高く生まれながら 身は沈み位みじかくて人げなき(そのけぢめをばいかが分くべき)/02-029」に対する頭中将の答え
「世に経るたづき少なく」「時世に移ろひておぼえ衰へぬれば」:対の関係
「こと足らず」「悪ろびたることども出でくるわざなめれ」:並列
「とりどりに」:「成り上がりの女性02/-032」と「元上の品の女性/02-033」のそれぞれ