木の道の匠のよろづ 帚木06章04

2021-04-18

原文 読み 意味

木の道の匠のよろづの物を心にまかせて作り出だすも 臨時のもてあそび物の その物と跡も定まらぬは そばつきさればみたるも げにかうもしつべかりけりと 時につけつつさまを変へて 今めかしきに目移りてをかしきもあり 大事として まことにうるはしき人の調度の飾りとする 定まれるやうある物を難なくし出づることなむ なほまことの物の上手は さまことに見え分かれはべる

02086/難易度:★★★

き/の/みち/の/たくみ/の/よろづ/の/もの/を/こころ/に/まかせ/て/つくり-いだす/も りんじ/の/もて-あそび/もの/の その/もの/と/あと/も/さだまら/ぬ/は そばつき/さればみ/たる/も げに/かう/も/し/つ/べかり/けり/と とき/に/つけ/つつ/さま/を/かへ/て いまめかしき/に/め/うつり/て/をかしき/も/あり だいじ/と/し/て まこと/に/うるはしき/ひと/の/てうど/の/かざり/と/する さだまれ/る/やう/ある/もの/を/なん/なく/し-いづる/こと/なむ なほ/まこと/の/もの-の-じやうず/は さま/こと/に/みエ/わか/れ/はべる

(左馬頭)指物師の匠が、様々な物を心にまかせて作り出す場合でも、一回切りの賞玩物でこうだと作り方に決まりがない時には、一見ふざけた印象にもなるものでも、なるほどこんな風にも仕上がるものかと、時々に合わせて趣向を変え、今風の感覚に目移りして興味を引くこともあるが、大事の品として誠に厳格な人が調度の飾りにする、形式の定まった品物を欠陥なく仕上げる場合こそ、やはり真に評価の定まった名人では、仕上がりに歴然と差が出るものです。

文構造&係り受け

主語述語と大構造

  • をかしきもあり 三次元構造|なむ…は…見え分かれはべる 三次元構造

〈木の道の匠〉のよろづの物を心にまかせて作り出だす 臨時の 〈もてあそび物の その物と跡も定まらぬ〉 は そばつきさればみたる  げにかうもしつべかりけり  時につけつつさまを変へて 今めかしきに目移りてをかしきもあり大事として まことにうるはしき人の調度の飾りとする 定まれるやうある物を難なくし出づる〈こと〉なむ なほまことの物の上手 さまことに見え分かれはべる

助詞と係り受け

木の道の匠のよろづの物を心にまかせて作り出だすも 臨時のもてあそび物の その物と跡も定まらぬは そばつきさればみたるも げにかうもしつべかりけりと 時につけつつさまを変へて 今めかしきに目移りてをかしきもあり 大事として まことにうるはしき人の調度の飾りとする 定まれるやうある物を難なくし出づることなむ なほまことの物の上手は さまことに見え分かれはべる

「(木の道の)匠の…作り出だす」:AのB連体形(「の」は主格)


「心にまかせて作り出だすも」:「も」は接続助詞で逆接。基準なく心のままに作った場合であっても、「をかしきもあり」


「(臨時の)もてあそび物のその物と跡も定まらぬ」:AのB連体形(「の」は同格)


「(臨時の)もてあそび物のその物と跡も定まらぬは」→「(時につけつつさまを変へて今めかしきに目移りて)をかしきもあり」:「さまを変へて」「目移りて」(並列)


「臨時の…跡も定まらぬ」「大事として…し出づる(ことなむ)」:対の表現


「そばつきさればみたるも」:「も」は接続助詞で逆接と考える。一文の前半の前半、ここで下げておいて前半の後半「をかしきもあり」で持ち上げる。


「大事として」「定まれる」(並列)→「やうある物」


「うるはしき人の調度の飾りとする」:AのB連体形(「の」は主格)


「うるはしき人の調度の飾りとする」+「定まれるやうある」→「物」

古語探訪

よろづの物を心にまかせて作り出だすも 02086

どんなものであれ心任せに作り出す場合でもの意味で、以下二つのケースに分けて論をすすめる。一つは空想の産物、今ひとつは実世界にモデルを見いだし得る作品。心にまかせは母集合、空想の産物とモデルを探せる作品はその部分集合である。

うるはしき人の調度の飾りとする 02086

「うるはしき人(注文主の貴族)の調度を飾るにふさわしい(作品)」。「うるはし」は、きちんとしたの意味で、ここはこんな感じ、ここはこうなどと、注文が細かいのだろう。「うるはしき人」は職人とする解釈もあるが、いきなり「調度の飾りとする」が出るのは不自然である。また、「うるはしき人」が職人なら、その動作は「難なくし出づる」と考えなければならない。しかし、「難なくし出づる」の主体は倒置された「まことの物の上手」であって、「うるはしき人」を主語に立てることはできない。さらにその読みでは何度も繰り返している交差禁止に觝触する。「大事としてまことに」が「定まれるやうある物」に係るので、その間の要素は「定まれるやうある物」より後ろに係ることも主述となることもできないから、「うるはしき人」は職人ではなく、「うるはしき人の調度(の飾りとする)」と考えるしかないのだ。

木の道の匠 02086

木地師や指物師や宮大工などをいうのだろう。

跡も定まらぬ 02086

こうすべき型もなくの意味。

そばつき 02086

はたからちょっと見た感じでは。一見。

さればみたる 02086

しゃれている、風流っ気がある。

げに 02086

(しげしげと見てみると)なるほど。「そばつき」と対比される。

かうもしつべかりけり 02086

こんな風にもすることができるのだなあ。

時につけつつ 02086

場合に応じて。

いまめかしき 02086

今風。

定まれるやうある物 02086

「跡も定まらぬ」の反対で、定まった型がある品物。あるいは決まった用途のある物。

まことの物の上手は 02086

真の評価の定まった名人は。物は動くことがない状態の形容。

ことに 02086

違って、あるいは特別に。

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