木の道の匠の よろ 086 ★★★

2020-09-22★★★:源氏千年の謎に挑む02 帚木

帚木 原文 かな書き 現代語訳 第6章04

木の道の匠のよろづの物を心にまかせて作り出だすも 臨時のもてあそび物の その物と跡も定まらぬは そばつきさればみたるも げにかうもしつべかりけりと 時につけつつさまを変へて 今めかしきに目移りてをかしきもあり 大事として まことにうるはしき人の調度の飾りとする 定まれるやうある物を難なくし出づることなむ なほまことの物の上手は さまことに見え分かれはべる

き/の/みち/の/たくみ/の/よろづ/の/もの/を/こころ/に/まかせ/て/つくり-いだす/も りんじ/の/もて-あそび/もの/の その/もの/と/あと/も/さだまら/ぬ/は そばつき/さればみ/たる/も げに/かう/も/し/つ/べかり/けり/と とき/に/つけ/つつ/さま/を/かへ/て いまめかしき/に/め/うつり/て/をかしき/も/あり だいじ/と/し/て まこと/に/うるはしき/ひと/の/てうど/の/かざり/と/する さだまれ/る/やう/ある/もの/を/なん/なく/し-いづる/こと/なむ なほ/まこと/の/もの-の-じやうず/は さま/こと/に/みエ/わか/れ/はべる

(左馬頭)指物師の匠が、様々な物を心にまかせて作り出す場合でも、一回切りの賞玩物でこうだと作り方に決まりがない時には、一見ふざけた印象にもなるものでも、なるほどこんな風にも仕上がるものかと、時々に合わせて趣向を変え、今風の感覚に目移りして興味を引くこともあるが、大事の品として誠に厳格な人が調度の飾りにする、形式の定まった品物を欠陥なく仕上げる場合こそ、やはり真に評価の定まった名人では、仕上がりに歴然と差が出るものです。

解釈の決め手

よろづの物を心にまかせて作り出だすも

どんなものであれ心任せに作り出す場合でもの意味で、以下二つのケースに分けて論をすすめる。一つは空想の産物、今ひとつは実世界にモデルを見いだし得る作品。心にまかせは母集合、空想の産物とモデルを探せる作品はその部分集合である。

うるはしき人の調度の飾りとする

「うるはしき人(注文主の貴族)の調度を飾るにふさわしい(作品)」。「うるはし」は、きちんとしたの意味で、ここはこんな感じ、ここはこうなどと、注文が細かいのだろう。「うるはしき人」は職人とする解釈もあるが、いきなり「調度の飾りとする」が出るのは不自然である。また、「うるはしき人」が職人なら、その動作は「難なくし出づる」と考えなければならない。しかし、「難なくし出づる」の主体は倒置された「まことの物の上手」であって、「うるはしき人」を主語に立てることはできない。さらにその読みでは何度も繰り返している交差禁止に觝触する。「大事としてまことに」が「定まれるやうある物」に係るので、その間の要素は「定まれるやうある物」より後ろに係ることも主述となることもできないから、「うるはしき人」は職人ではなく、「うるはしき人の調度(の飾りとする)」と考えるしかないのだ。

帚木 注釈 第6章04

木の道の匠 02-086

木地師や指物師や宮大工などをいうのだろう。

跡も定まらぬ 02-086

こうすべき型もなくの意味。

そばつき 02-086

はたからちょっと見た感じでは。一見。

さればみたる 02-086

しゃれている、風流っ気がある。

げに 02-086

(しげしげと見てみると)なるほど。「そばつき」と対比される。

かうもしつべかりけり 02-086

こんな風にもすることができるのだなあ。

時につけつつ 02-086

場合に応じて。

いまめかしき 02-086

今風。

定まれるやうある物 02-086

「跡も定まらぬ」の反対で、定まった型がある品物。あるいは決まった用途のある物。

まことの物の上手は 02-086

真の評価の定まった名人は。物は動くことがない状態の形容。

ことに 02-086

違って、あるいは特別に。

語りの対象&構造型

対象:心に任せて作る作品決まった基準のある作品

木の道の匠のよろづの物を心にまかせて作り出だすも》A
指物師の匠が、様々な物を心にまかせて作り出す場合でも、


臨時のもてあそび物の その物と跡も定まらぬは》B
一回切りの賞玩物でこうだと作り方に決まりがない時には、


そばつきさればみたるも・げにかうもしつべかりけりと》C・D
一見ふざけた印象にもなるものでも、なるほどこんな風にも仕上がるものかと、


時につけつつさまを変へて 今めかしきに目移りてをかしきもあり》E
時々に合わせて趣向を変え、今風の感覚に目移りして興味を引くこともあるが、


大事としてまことに うるはしき人の調度の飾りとする 定まれるやうある物を難なくし出づることなむ》F
大事の品として誠に厳格な人が調度の飾りにする、形式の定まった品物を欠陥なく仕上げる場合こそ、


なほまことの物の上手は さまことに見え分かれはべる》G
やはり真に評価の定まった名人では、仕上がりに歴然と差が出るものです。

中断型:A<B<C<D<EφF<G:A<B<C<D<E、F<G

 A<B:AはBに係る Bの情報量はAとBの合算〈情報伝達の不可逆性〉
 ※係り受けは主述関係を含む


〈直列型〉<:直進 :倒置 〈分岐型〉( ):迂回 +:並列
〈中断型〉φ:独立文 [ ]:挿入 :中止法


〈反復型〉~AX:Aの置換X A[,B]:Aの同格B 〈分配型〉A<B|*A<C ※直列型以外は複数登録、直列型は単独使用

情報の階層&係り受け

構文:も…は…をかしきもあり/三次φ見え分かれはべる/二次

〈木の道の匠〉のよろづの物を心にまかせて作り出だす  臨時 〈もてあそび物の その物と跡も定まらぬ〉は そばつきさればみたるも げにかうもしつべかりけり 時につけつつさまを変へて 今めかしきに目移りて をかしきもあり 大事としてまことに うるはしき人の調度の飾りとする 定まれるやうある物を難なくし出づる 〈こと〉なむ なほまことの物の上手は さまことに見え分かれはべる

主〉述:一朱 二緑 三青 四橙 五紫 六水 [ ]: 補 /: 挿入 :分岐

係り受け&主語述語

「(木の道の)匠の…作り出だす」:AのB連体形(「の」は主格)


「心にまかせて作り出だすも」:「も」は接続助詞で逆接。基準なく心のままに作った場合であっても、「をかしきもあり」


「(臨時の)もてあそび物のその物と跡も定まらぬ」::AのB連体形(「の」は同格)


「(臨時の)もてあそび物のその物と跡も定まらぬは」→「(時につけつつさまを変へて今めかしきに目移りて)をかしきもあり」


「臨時の…跡も定まらぬ」「大事として…し出づる(ことなむ)」:対の表現


「そばつきさればみたるも」:「も」は接続助詞で逆接と考える。一文の前半の前半、ここで下げておいて前半の後半「をかしきもあり」で持ち上げる。


「大事としてまことに」→「定まれるやうある物」


「うるはしき人の調度の飾りとする」:AのB連体形(「の」は主格)


「うるはしき人の調度の飾りとする」+「定まれるやうある」→「物」