よろづのことになど 帚木11章03

2021-03-29

原文 読み 意味

よろづのことに などかは さても とおぼゆる折から 時々 思ひわかぬばかりの心にては よしばみ情け立たざらむなむ目やすかるべき すべて 心に知れらむことをも 知らず顔にもてなし 言はまほしからむことをも 一つ二つのふしは過ぐすべくなむあべかりける と言ふにも 君は 人一人の御ありさまを 心の中に思ひつづけたまふ これに足らずまたさし過ぎたることなくものしたまひけるかな と ありがたきにも いとど胸ふたがる いづ方により果つともなく 果て果てはあやしきことどもになりて 明かしたまひつ

02118/難易度:☆☆☆

よろづ/の/こと/に などかは さても と/おぼゆる/をりから ときどき おもひ/わか/ぬ/ばかり/の/こころ/にて/は よしばみ/なさけだた/ざら/む/なむ/めやすかる/べき すべて こころ/に/しれ/ら/む/こと/を/も しらずがほ/に/もてなし いは/まほしから/む/こと/を/も ひとつ/ふたつ/の/ふし/は/すぐす/べく/なむ/あ/べかり/ける と/いふ/に/も きみ/は ひと/ひとり/の/おほむ-ありさま/を こころ/の/うち/に/おもひ/つづけ/たまふ これ/は/たら/ず/また/さし-すぎ/たる/こと/なく/ものし/たまひ/ける/かな と/ありがたき/に/も いとど/むね/ふたがる いづかた/に/より/はつ/と/も/なく はてはて/は/あやしき/こと-ども/に/なり/て あかし/たまひ/つ

何事でもどうしてそんなことをそのままでよいのにとつい思えることが多い今日この頃ですから、時々の状況を見分けられぬ程度の頭では、気取ったり思わせぶったりはしない方が見よいでしょう。総じて、心に知りつくしていることでも知らぬ顔でふるまい、言いたいことがあっても一つ二つくらいは黙って見過ごすくらいでいるのがよろしいでしょうよ」と言うにも、若君はただ一人の御有様を心の中で思いつづけておられる。「左馬頭の論に不足もせず、また行過ぎることもなくいらっしゃることだな」と、たぐいない人だと思うにつけ、ますます胸がふさがる。どちらの方向に議論が行き着くというでもなく、とうとうしまいは猥談などになって夜を明かしてしまわれた。

大構造と係り受け

よろづのことに などかは さても とおぼゆる折から 時々 思ひわかぬばかりの心にては よしばみ情け立たざらむなむ目やすかるべき すべて 心に知れらむことをも 知らず顔にもてなし 言はまほしからむことをも 一つ二つのふしは過ぐすべくなむあべかりける と言ふにも 君は 人一人の御ありさまを 心の中に思ひつづけたまふ これに足らずまたさし過ぎたることなくものしたまひけるかな と ありがたきにも いとど胸ふたがる いづ方により果つともなく 果て果てはあやしきことどもになりて 明かしたまひつ

◇ 「時々」→「思ひわかぬ」(前節の流れから状況判断と考える)

◇ 「すべて」→「心に知れらむことをも知らず顔にもてなし」「言はまほしからむことをも一つ二つのふしは過ぐす/並列)→「べくなむあべかりける」

古語探訪

などかは 02118

「ありなむ」などの省略、そんな風にしなくともよいものを。

さても 02118

「ありなむ」などの省略、そのままでよい。

とおぼゆる折から 02118

ついついそんな風に思われる時があるので。「おぼゆる」は自発。「から」は原因。

よしばみ 02118

よくみせる。

情け立たざらむ 02118

愛情をみせようとしない。

目やすかるべき 02118

見よい。

知れらむこと 02118

知っていそうなこと。ラ行四段動詞「知る」の已然形「知れ」+完了「り」の未然形「ら」+推量「む」の連体形「む」+「こと」。

もてなし 02118

ふるまう。取り計らう。

言はまほしからむこと 02118

言いたいこと。

ふし 02118

機会。

過ぐす 02118

見逃す。

あべかりけること 02118

「あるべかりけること」の省略形、必ずそうあるのがよいと思われた。

人一人の御ありさま 02118

藤壺のこと。

これ 02118

左馬頭の考え。特に「すべて 心に知れらむことをも 知らず顔にもてなし 言はまほしからむことをも 一つ二つのふしは過ぐすべくなむあべかりける」

ものしたまひ 02118

いらっしゃる。

いづ方により果つともなく 02118

理想の女性の結論がどこにも、誰の議論にも落ち着くことなく。

あやしきこと 02118

おそらく猥談であろう。

明かし 02118

夜を明かす。

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