ただうはべばかりの 018 ★☆☆
ただうはべばかりの情けに手走り書き 原文 読み 意味 帚木第2章10/源氏物語
ただうはべばかりの情けに手走り書き をりふしの答へ心得てうちしなどばかりは 随分によろしきも多かりと見たまふれど そもまことにその方を取り出でむ選びに かならず漏るまじきは いと難しや
ただ/うはべ/ばかり/の/なさけ/に/て/はしりかき をりふし/の/いらへ/こころえ/て/うち-し/など/ばかり/は ずいぶん/に/よろしき/も/おほかり/と/み/たまふれ/ど そも/まこと/に/その/かた/を/とりいで/む/えらび/に かならず/もる/まじき/は いと/かたし/や
(頭中将)ただうわべばかりの愛情からさらさらと文字を書きちらし、時節に応じた応答のこつを心得てさっと返書をしたためるぐらいのことは、そこそこできる女も多いように見えますが、そもまことに妻選びの候補として決して漏れるおそれのない女性は先ずもっていないものですよ。
大構造(は…難しや/五次)& 係り受け
〈[女性]〉ただうはべばかりの情けに手走り書き をりふしの答へ心得てうちしなどばかりは @随分によろしきも多かりと@〈[男]〉見たまふれど そもまことにその方を取り出でむ選びに 〈かならず漏るまじき〉は いと難しや
〈主〉述:一朱二緑三青四橙五紫六水 [ ]: 補 /: 挿入 @・@・@・@:分岐
「うはべばかりの情けに手走り書き」「をりふしの答へ心得てうちし」(並列):→「見たまふれ(ど)」
物語の深部を支える重要語句へのアプローチ
ただうはべばかりの情け:先天性と後天性
うわべの愛情の意味。風流気取りの意味ではない。「はかなきついでの情け/02-057(左馬頭)」、「うはべの情け/02-06(頭中将)」、「見る目の情け/02-090(左馬頭)」いずれも、傍目からは情け深く見えるものの、内実はそうではないので、真に頼りとはできないことをいう。特に混乱が起きているのは、指を喰う女は嫉妬心は強いものの、男のためになんでもする情愛深い女であるため、このカテゴリーから外して解釈されているが、間違いである。この女は恨みが本心で、深い愛情はその上につけたものである。だから、愛情が深くとも本心である恨みを消すことはできなかったのだ。この点を逃すと、左馬頭の発言の多くを曲解してしまう。/02-090でまた触れたい。
その方を取り出でむ選び:妻選び
手紙の上手な人を決める選択と解釈されているが、ナンセンスである。頭中将の発言のテーマは、(妻として)非の打ち所のない女は探してもいないというもの。手紙の名手を探しているのではない。いくら手紙がうまくったって、うわべの愛情から出たものは信用ができないとの意味である。
帚木 注釈 第2章10
随分に 02-018
身分の高い人は高い人なりに、低い女は低いなりにの意味。ただし、主な意識は貴人にある。
よろしき 02-018
まあよいの意味。よし・よろし・わろし・あしの順。
附録:耳からの情報処理(語りの対象 & 構造型)
語りの対象:世の女/世の男
《ただうはべばかりの情けに手走り書き をりふしの答へ心得てうちしなどばかりは》A
ただうわべばかりの愛情からさらさらと文字を書きちらし、時節に応じた応答のこつを心得てさっと返書をしたためるぐらいのことは、
《随分によろしきも多かりと見たまふれど》B
そこそこできる女も多いように見えますが、
《そもまことにその方を取り出でむ選びに・かならず漏るまじきは いと難しや》C・D
そもまことに妻選びの候補として決して漏れるおそれのない女性は先ずもっていないものですよ。
直列型:A<B<C<D:A<B<C<D
A<B:AはBに係る Bの情報量はAとBの合算〈情報伝達の不可逆性〉
※係り受けは主述関係を含む
〈直列型〉<:直進 #:倒置 〈分岐型〉( ):迂回 +:並列
〈中断型〉φ:独立文 [ ]:挿入 |:中止法
〈反復型〉~AX:Aの置換X A[,B]:Aの同格B 〈分配型〉A<B|*A<C ※直列型以外は複数登録、直列型は単独使用