法の師の世のことわ 093
帚木 原文 かな書き 現代語訳 第6章11
法の師の世のことわり説き聞かせむ所の心地するもかつはをかしけれど かかるついではおのおの睦言もえ忍びとどめずなむありける
のりのし/の/よ/の/ことわり/とき/きかせ/む/ところ/の/ここち/する/も/かつ/は/をかしけれ/ど かかる/ついで/は/おのおの/むつごと/も/え/しのび/とどめ/ず/なむ/あり/ける
左馬頭を囲む様子は法師が世の定めを説き聞かせる聴聞所のような感じがして興味がそそられたが、こうした機会にはそれぞれ秘め事までも隠し切れないことも興味をそそるのだった。
物語の深部を支える重要語句へのアプローチ
かつはをかしけれど
「かつは」は相反する二つのことがらに引き裂かれているアンビバレントな状態を言う。ここで相反するのは、坊主の説教と睦言。その両方に、物語の語り手は興味を示している。「なむありける」のあとに、「もかつはをかし」などが省略されていると考える。
帚木 注釈 第6章11
法の師 02-093
法師。「中将いみじく信じて/02-092」の流れから、信心と言えば仏教という連想。
ことわり 02-093
道理。
所 02-093
説教所。
附録:耳からの情報処理(語りの対象 & 構造型)
語りの対象:左馬頭/語り手/エピソードの語り手(左馬頭・頭中将・藤式部丞)
《法の師の世のことわり説き聞かせむ所の心地するも・かつはをかしけれど》A・B
左馬頭を囲む様子は法師が世の定めを説き聞かせる聴聞所のような感じがして興味がそそられたが、
《かかるついではおのおの睦言もえ忍びとどめずなむありける》C
こうした機会にはそれぞれ秘め事までも隠し切れないことも興味をそそるのだった。
反復型:A<B<C「<B:省略」:A<B<C<B
A<B:AはBに係る Bの情報量はAとBの合算〈情報伝達の不可逆性〉
※係り受けは主述関係を含む
〈直列型〉<:直進 #:倒置 〈分岐型〉( ):迂回 +:並列
〈中断型〉φ:独立文 [ ]:挿入 |:中止法
〈反復型〉~AX:Aの置換X A[,B]:Aの同格B 〈分配型〉A<B|*A<C ※直列型以外は複数登録、直列型は単独使用
情報の階層&係り受け
大構造(ど…は…もえ忍びとどめずなむありける/三次〈法の師〉の世のことわり説き聞かせむ所の心地するもかつはをかしけれど かかるついでは〈おのおの〉睦言もえ忍びとどめずなむありける
〈主〉述:一朱二緑三青四橙五紫六水 [ ]: 補 /: 挿入 @・@・@・@:分岐
係り受け&主語述語
「法の師の…説き聞かせむ」:AのB連体形(「の」:主格)
「え忍びとどめずなむありける」:「もかつはをかし」が省略されている。