さるは いといたく 002
帚木 原文 かな書き 現代語訳 第1章02
さるは いといたく世を憚り まめだちたまひけるほど なよびかにをかしきことはなくて 交野少将には笑はれたまひけむかし
さるは いと/いたく/よ/を/はばかり まめだち/たまひ/ける/ほど なよびか/に/をかしき/こと/は/なく/て かたの-の-せうしやう/に/は/わらは/れ/たまひ/けむ/かし
その実はもう、ひどく世間の目を気にかけ、気まじめそうにしていらっしゃるほどといっては、婀娜めいた艶話はなくて、恋の達人交野の少将には笑われておしまいだったでしょう。
物語の深部を支える重要語句へのアプローチ
さるは:副詞と接続詞では意味が異なる
接続詞で、前の内容をくつがえす時に用いる。「その実」「実際には」などの意味。前文で、もの言いさがない人が語り伝えたという「忍びたまひける隠ろへごと/02-001」に対して、実際にはそんなことはないと切り返してゆく。
帚木 注釈 第1章02
いたく 02-002
ひどく。
まめだち 02-002
まじめな様子。
なよびか 02-002
「まめだち」の反対、つやっぽい。
をかしき 02-002
興味をひく。
交野少将 02-002
散逸した物語の主人公とされており、恋の達人であったことになっている。
附録:耳からの情報処理(語りの対象 & 構造型)
語りの対象:光源氏/交野少将
《さるは いといたく世を憚り まめだちたまひけるほど なよびかにをかしきことはなくて》A
その実はもう、ひどく世間の目を気にかけ、気まじめそうにしていらっしゃるほどといっては、婀娜めいた艶話はなくて、
《交野少将には笑はれたまひけむかし》B
恋の達人交野の少将には笑われておしまいだったでしょう。
直列型:A<B:A<B
A<B:AはBに係る Bの情報量はAとBの合算〈情報伝達の不可逆性〉
※係り受けは主述関係を含む
〈直列型〉<:直進 #:倒置 〈分岐型〉( ):迂回 +:並列
〈中断型〉φ:独立文 [ ]:挿入 |:中止法
〈反復型〉~AX:Aの置換X A[,B]:Aの同格B 〈分配型〉A<B|*A<C ※直列型以外は複数登録、直列型は単独使用
大構造(には笑はれたまひけむかし/三次)& 係り受け
さるは 〈[光源氏]〉いといたく世を憚り まめだちたまひけるほど なよびかにをかしき〈こと〉はなくて 交野少将には笑はれたまひけむかし
〈主〉述:一朱二緑三青四橙五紫六水 [ ]: 補 /: 挿入 @・@・@・@:分岐
「さるは」→「(…をかしきことは)なく(て)」
「いといたく世を憚り」「まめだちたまひける」(並列)→「ほど」
「…まめだちたまひけるほど」「なよびかにをかしきことはなく」(並列)→「て」
「なよびかに」「をかしきことは」(並列)→「なくて」