里にても わが方の 008 ★☆☆

2020-09-16★☆☆:語義の洗い直しから02 帚木

帚木 原文 かな書き 現代語訳 第1章08

里にても わが方のしつらひまばゆくして 君の出で入りしたまふにうち連れきこえたまひつつ 夜昼学問をも遊びをももろともにして をさをさ立ちおくれず いづくにてもまつはれきこえたまふほどに おのづからかしこまりもえおかず 心のうちに思ふことをも隠しあへずなむ 睦れきこえたまひける

さと/にて/も わが/かた/の/しつらひ/まばゆく/し/て きみ/の/いでいり/し/たまふ/に/うちつれ/きこエ/たまひ/つつ よる/ひる/がくもん/を/も/あそび/を/も/もろともに/し/て をさをさ/たちおくれ/ず いづく/にて/も/まつは/れ/きこエ/たまふ/ほど/に おのづから/かしこまり/も/え/おか/ず こころ/の/うち/に/おもふ/こと/を/も/かくしあへ/ず/なむ むつれ/きこエ/たまひ/ける

エ:や行の「え」

実家においてもまた自分の身の回りのしたくをきらびやかにして光君の出入りなさるのにお伴申しては、昼夜となく学問をも遊びをも一緒にしてなかなか遅れを取らず、どのような場所にでも付き従い申しておいでなので、自然と遠慮もおかれず、心中思うことまでも隠しおおせぬほど仲睦まじくふるまい申し上げておられた。

解釈の決め手

わが方のしつらひ:転成名詞は元の品詞に直して考える

諸注「自分の部屋の飾り立て」と解釈する。「しつらひ」は一般に室内の設備配置の意味ではあるが、ここは「しつらふ」の名詞化であり、調えることとの意味。「葵」の帖に「御装束たてまつり替へて、西の対に渡りたまへり。衣更えの御しつらひ、くもりなくあざやかに見えて/@」とある。服装に対するしつらえである。「しつらひまばゆくして」は「うち連れきこえたまひ」にかかる。「君の出で入りしたまふ」にかけない。左大臣が娘婿である光源氏に対して「よろづの御よそひ何くれとめづらしきさまに」調えたことの向うを張っているのだ。光源氏の「よそひ」に対して、頭中将は「しつらひ」とする。後者にはやや意識的なニュアンスがある。頭中将の光源氏に対する対抗意識が感じられる語である。

隠しあへず:互いに隠さないのかずっど隠し切れないのか

「あふ」には「お互い……しあう」の意味と、「最後までずっと……する」の二つの意味がある。どちらの意味で解釈するかにより、二人の関係はずいぶんちがってくる。前者であれば、二人は親密であるが、後者であればそれほどでもなくなる。すなわち、頭中将は心やすくふるまうが、光源氏の方からはどういう態度を示すのか書かれていないのだ。結論からすれば、「隠し通すことができない」の意味であり、「お互いに胸の中のことも包みきれず」は間違いである。雨夜の品定めにおいても、ぺらぺらやらかすのは頭中将であり、光は寡黙である。「なかに親しく馴れきこえたまひ/02-006」「心安く、なれなれしく/02-006」「うち連れきこえたまひ」「まつはれきこえたまふ」「かしこまりもえおかず」「隠しあへず」「睦れきこえたまひ」と、これらは一方的に頭中将から光源氏への動作である。ここでの光源氏の性格は他の帖といささか齟齬する向きがある。

帚木 注釈 第1章08

里にても 02-008

現在は宮中で一緒だが、普段、左大臣宅(頭中将の実家で、光源氏の嫁の里)でも。内裏のみならず実家でも。

語りの対象&構造型

対象:頭中将光源氏光源氏と頭中将

里にても わが方のしつらひまばゆくして》A
実家においてもまた自分の身の回りのしたくをきらびやかにして


君の出で入りしたまふに うち連れきこえたまひつつ》B
光君の出入りなさるのにお伴申しては、


夜昼学問をも遊びを ももろともにして  をさをさ立ちおくれず》C
昼夜となく学問をも遊びをも一緒にしてなかなか遅れを取らず、


いづくにてもまつはれきこえたまふほどに》E
どのような場所にでも付き従い申しておいでなので、


おのづからかしこまりもえおかず・心のうちに思ふことをも隠しあへずなむ 睦れきこえたまひける》F・G
自然と遠慮もおかれず、心中思うことまでも隠しおおせぬほど仲睦まじく、ふるまい申し上げておられた。

直列型:A<B<C<E<F<G:A<B<C<E<F<G

 A<B:AはBに係る Bの情報量はAとBの合算〈情報伝達の不可逆性〉
 ※係り受けは主述関係を含む


〈直列型〉<:直進 :倒置 〈分岐型〉( ):迂回 +:並列
〈中断型〉φ:独立文 [ ]:挿入 :中止法


〈反復型〉~AX:Aの置換X A[,B]:Aの同格B 〈分配型〉A<B|*A<C ※直列型以外は複数登録、直列型は単独使用

情報の階層&係り受け

構文:なむ睦れきこえたまひける/六次

〈[頭中将]〉里にても わが方のしつらひまばゆくして 〈君〉の出で入りしたまふにうち連れきこえたまひつつ 夜昼学問をも遊びをももろともにして をさをさ立ちおくれず いづくにてもまつはれきこえたまふほど おのづからかしこまりもえおかず 心のうち思ふことをも隠しあへず なむ 睦れきこえたまひける

主〉述:一朱 二緑 三青 四橙 五紫 六水 [ ]: 補 /: 挿入 :分岐

全体として「宮腹の中将はなかに親しく馴れきこえたまひて、遊び戯れをも人よりは心安くなれなれしく振る舞ひたり/02-006」の具体的描写となっている。


結局「おのづからかしこまりもえおかず 心のうちに思ふことをも隠しあへず(なむ睦れきこえたまひける)」という仲だから、身分が高い光源氏に対して多少無遠慮に振る舞いますよとの前置き。

係り受け&主語述語

「里にても」→「うち連れきこえたまひ」


「里にても」「夜昼学問をも」(並列):ともに「いづくにても」と言い換え