例の人びとはいぎた 帚木16章05

2021-03-31

原文 読み 意味

例の 人びとはいぎたなきに 一所すずろにすさまじく思し続けらるれど 人に似ぬ心ざまの なほ消えず立ち上れりけるとねたく かかるにつけてこそ心もとまれと かつは思しながら めざましくつらければ さばれと思せども さも思し果つまじく 隠れたらむ所に なほ率て行けとのたまへど いとむつかしげにさし籠められて 人あまたはべるめれば かしこげにと聞こゆ いとほしと思へり よし あこだにな捨てそとのたまひて 御かたはらに臥せたまへり 若くなつかしき御ありさまを うれしくめでたしと思ひたれば つれなき人よりは なかなかあはれに思さるとぞ

02138/難易度:☆☆☆

れい/の ひとびと/は/いぎたなき/に ひとところ/すずろ/に/すさまじく/おぼし/つづけ/らるれ/ど ひと/に/に/ぬ/こころざま/の なほ/きエ/ず/たち/のぼれ/り/ける/と/ねたく かかる/に/つけ/て/こそ/こころ/も/とまれ/と かつ/は/おぼし/ながら めざましく/つらけれ/ば さばれ/と/おぼせ/ども さも/おぼし/はつ/まじく かくれ/たら/む/ところ/に なほ/ゐ/て/いけ/と/のたまへ/ど いと/むつかしげ/に/さし-こめ/られ/て ひと/あまた/はべる/めれ/ば かしこげ/に/と/きこゆ いとほし/と/おもへ/り よし あこ/だに/な/すて/そ/と/のたまひ/て おほむ-かたはら/に/ふせ/たまへ/り わかく/なつかしき/おほむ-ありさま/を うれしく/めでたし/と/おもひ/たれ/ば つれなき/ひと/より/は なかなか/あはれ/に/おぼさ/る/と/ぞ

例によって、従者たちは寝ほうけているのに、光の君おひとりは女の返歌にただただ寒々とした情愛のなさをお感じつづけになるが、人とはまるで異なった心のありようが、「消ゆる」と言いながらなお消えずに立ちのぼってくるのが、なんともねたましくて、だからこそ魅せられてしまうのだと、一方ではお考えになりながらも、あまりに癪で薄情だと思われるので、もうどうとでもなれと投げやりになられながら、そうも思い切ることはおできでなく、「隠れているところへ、無理にも連れて行け」とおっしゃるけれど、「ひどく見苦しいところに閉じこもっていて、人がたくさん侍っているようですから、畏れ多く思われますから」と申し上げる。小君は何とも申し訳ない様子で控えている。「わかった。そちだけはせめて見捨てないどくれ」とおっしゃって、小君をおそばに寝かせになった。お若くて惹きつけられてしまうお姿を、うれしくすばらしいと小君が賛嘆していると、つれない人よりはかえっていとしくお思いになったとやら。

例の 人びとはいぎたなきに 一所すずろにすさまじく思し続けらるれど 人に似ぬ心ざまの なほ消えず立ち上れりけるとねたく かかるにつけてこそ心もとまれと かつは思しながら めざましくつらければ さばれと思せども さも思し果つまじく 隠れたらむ所に なほ率て行けとのたまへど いとむつかしげにさし籠められて 人あまたはべるめれば かしこげにと聞こゆ いとほしと思へり よし あこだにな捨てそとのたまひて 御かたはらに臥せたまへり 若くなつかしき御ありさまを うれしくめでたしと思ひたれば つれなき人よりは なかなかあはれに思さるとぞ

大構造と係り受け

古語探訪

人びと 02138

従者。

一所 02138

光ひとり。

すずろに 02138

無性に。

すさまじく 02138

荒廃した気分。直接には返歌に対する感想である。それは、「消えず立ちのぼりける」が空蝉の返歌である「あるにもあらず消ゆる帚木」を受けていることからもわかる。

人に似ぬ心ざま 02138

他の女とは違う心のあり方。

なほ 02138

返歌で消えてしまう帚木と歌いながら、それでもやはり。

心もとまれ 02138

魅了される。

めざましく 02138

心外で癪。

つらけれ 02138

相手の冷淡さをひどいと思う気持ち。

さばれ 02138

「さもあればあれ」の略で、どうにでもなれという投げやりな気持ち。

さも 02138

そのようになげやりになること。

思し果つ 02138

思い決める。

むつかしげ 02138

むさ苦しい。

かしこげに 02138

そのような場所に光をお連れすることを恐れ多くかんじているのである。

いとほし 02138

光に対して申し訳ないと思う気持ち。気の毒というような同等な立場の者が示す同情ではない。

あこ 02138

そなた。

だに 02138

せめて……だけは。

な…そ 02138

軽い禁止命令。

御かたはら 02138

光のお側。

臥せ 02138

他動詞で小君を横に臥せさせる。

若くなつかしき御ありさま 02138

小君から見た光の姿。

なつかしき 02138

心がなつく。そちらに向かう。

つれなき人 02138

冷淡な空蝉。

なかなか 02138

かえって。

あはれ 02138

愛情。ホモセクシャルな愛情である。

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