心ざし深からむ男を 帚木05章06
原文 読み 意味
心ざし深からむ男をおきて 見る目の前につらきことありとも 人の心を見知らぬやうに逃げ隠れて 人をまどはし心を見むとするほどに 長き世のもの思ひになる いとあぢきなきことなり
02067/難易度:★★☆
ころざし/ふかから/む/をとこ/を/おき/て みる/め/の/まへ/に/つらき/こと/あり/とも ひと/の/こころ/を/みしら/ぬ/やう/に/にげ-かくれ/て ひと/を/まどはし/こころ/を/み/む/と/する/ほど/に ながき/よ/の/もの-おもひ/に/なる いと/あぢきなき/こと/なり
(左馬頭)愛情深い夫を捨ておき、当面浮気など恨めしいことがあるにしても、夫の気持ちを知りもせぬように逃げ隠れて夫をまどわせ、本心を試してやろとしているうちに一、生の後悔を招くことになる、まことに愚かしいことです。
文構造&係り受け
主語述語と大構造
- あぢきなきことなり 三次元構造
/〈[女]〉心ざし深からむ男をおきて @見る目の前に〈つらきこと〉ありとも 人の心を見知らぬやうに@ 逃げ隠れて 人をまどはし心を見むとするほどに 長き世のもの思ひになる いとあぢきなきことなり/
助詞と係り受け
心ざし深からむ男をおきて 見る目の前につらきことありとも 人の心を見知らぬやうに逃げ隠れて 人をまどはし心を見むとするほどに 長き世のもの思ひになる いとあぢきなきことなり
「心ざし深からむ男を…いとあぢきなきことなり」:挿入
「心ざし深からむ男をおきて」→「心を見むとする(ほどに)」
「見る目の前につらきことありとも」→「心を見むとする(ほどに)」
「逃げ隠れて」→「心を見むとする(ほどに)」
古語探訪
見る目の前につらきことありとも 02067
「夫の浮気などつらいことがあってもそれに対処せずに(逃げ隠れ)」と解釈されている。しかし、この表現は「長き世のもの思ひ」と対になっており、現実の厳しさにさらされながら、愛情深い夫の心を知らぬように逃げ隠れ、その気持ちを試そうとしているうちに、一生取り返しのつかないことになるということである。「対処せずに」などの原文にない言葉を補っている時点で、その解釈は怪しいと考えたほうがよい。だいたい、愛情深い夫と言いながら、浮気をしていたのでは、妻の行動を批判できないだろう。
心ざし 02067
心が向かう方向、即ち、妻に対する愛情、誠意。
おきて 02067
ほったらかしにして、距離をおいて。
人の心 02067
人の情、夫婦の情愛。
心をも見む 02067
相手の気持ちを試す。
長き世のもの思ひ 02067
生涯に渡る痛恨事。具体的には仏門に入って還俗できなくなること。
あぢきなき 02067
人の道にそむく行為に対していう。
〈テキスト〉〈語り〉〈文脈〉の背景
心を見る 02067
この後、この女の話には「心」と「見る」が頻出し、キーワードになっている。実際に相手の男をよく見ないで、相手の愛情を抽象的に求めるところに問題の本質がある。