かならずしもわが思 帚木04章07
原文 読み 意味
かならずしもわが思ふにかなはねど 見そめつる契りばかりを捨てがたく思ひとまる人は ものまめやかなりと見え さて 保たるる女のためも 心にくく推し量らるるなり
02053/難易度:★☆☆
かならずしも/わが/おもふ/に/かなは/ね/ど みそめ/つる/ちぎり/ばかり/を/すて-がたく/おもひ/とまる/ひと/は ものまめやか/なり/と/みエ さて たもた/るる/をむな/の/ため/も こころにくく/おしはから/るる/なり
(左馬頭)必ずしもこちらの望みに添うのではないが、ひとたび結んだ夫婦の契りを棄てがたく愛情を注ぎつづける男は誠実を地でゆくものと見え、そうなればこそ 縁を保たれる女性も世間から奥ゆかしく人だと思われるのです。
文構造&係り受け
主語述語と大構造
- は…と見え…も…推し量らるるなり 四次元構造
〈[女]〉かならずしもわが思ふにかなはねど 見そめつる契りばかりを捨てがたく思ひとまる〈人〉は ものまめやかなりと見え さて保たるる 〈女〉のためも 心にくく 推し量らるるなり
助詞と係り受け
かならずしもわが思ふにかなはねど 見そめつる契りばかりを捨てがたく思ひとまる人は ものまめやかなりと見え さて 保たるる女のためも 心にくく推し量らるるなり
「思ひとまる人はものまめやかなりと見え」「さて保たるる女のためも心にくく推し量らるる」:並列
古語探訪
思ひとまる人 02053:思いがその場に定着する
「棄てるのを思いとどまる」の意味で解釈されているようだが、思ひ(愛情)が他の女性に移らない、とどまっている。先に出た「心とまる/02042」が愛情がわく意であったように、「とまる」はじっとしている、そこに根付くの意味。
ものまめやか 02053
誠実そのもの。
さて 02053
「さありて」の略。おとこがまめに見える、そうあってこそ、女も奥ゆかしく世間から見られるの意味。
保たるる 02053
男が「思ひとまる」状態で縁がつづく。男から愛想づかしされず愛情を注がれ続けられる。
心にくく 02053
奥ゆかしい。
推し量らるる 02053
「推し量る」は根拠のある推量。
〈テキスト〉〈語り〉〈文脈〉の背景
男の真価 02053
先の頭中将の発言「わが力入りをし直しひきつくろふべき所なく/02052」に対して、「わが思ふにかなはねど」と否定していることから、発言者が左馬頭に替わったことが確認できる。頭中将は女性がこうあってほしいと要求するのに対して、左馬頭は男側の誠実さを問題にしている点に相違が見られる。指を喰う女の件で左馬頭が失敗した一番の原因は、どんなに無理強いしても相手は受け入れるに違いないと考えた左馬頭の誠実さの欠如にあった。