例の内裏に日数経た 帚木16章01
原文 読み 意味
例の 内裏に日数経たまふころ さるべき方の忌み待ち出でたまふ にはかにまかでたまふまねして 道のほどよりおはしましたり 紀伊守おどろきて 遣水の面目とかしこまり喜ぶ 小君には 昼より かくなむ思ひよれるとのたまひ契れり 明け暮れまつはし馴らしたまひければ 今宵もまづ召し出でたり
02134/難易度:☆☆☆
れい/の うち/に/ひかず/へ/たまふ/ころ さるべき/かた/の/いみ/まち/いで/たまふ にはか/に/まかで/たまふ/まね/し/て みち/の/ほど/より/おはしまし/たり き-の-かみ/おどろき/て やりみづ/の/めいぼく/と/かしこまり/よろこぶ こぎみ/に/は ひる/より かく/なむ/おもひよれ/る/と/のたまひ/ちぎれ/り あけくれ/まつはし/ならし/たまひ/けれ/ば こよひ/も/まづ/めし/いで/たり
例により、内裏で幾日もお過ごしの間、好都合な方角が方塞がりに当たる日を待ち受けになる。当日、にわかに左大臣邸退出なさるふりをして、道の途中から方違えとして紀伊邸へお越しになった。紀伊守は驚いて、遣水のおかげだと恐縮して喜ぶ。小君には昼のうちに、これこれの心積もりでいると固くお約束になっていた。明け暮れそばに置き、ご用づとめも慣れさせておかれたので、今宵もまっさきにお呼び出しになった。
例の 内裏に日数経たまふころ さるべき方の忌み待ち出でたまふ にはかにまかでたまふまねして 道のほどよりおはしましたり 紀伊守おどろきて 遣水の面目とかしこまり喜ぶ 小君には 昼より かくなむ思ひよれるとのたまひ契れり 明け暮れまつはし馴らしたまひければ 今宵もまづ召し出でたり
大構造と係り受け
古語探訪
例の 02134
いつものように。
さるべき方 02134
そうなるのが都合よい方角、すなわち、左大臣邸。タブーなので、名指しせずに「さるべき方」とおぼめかしたのだろう。方塞がりの方角が一周したということは、初回の訪問から六十日が経つことになる。季節は梅雨明けの初夏から残暑の季節に移っている。
まかで 02134
宮中から左大臣邸へ向けて退出する。
おはしましたり 02134
紀伊邸に来る。紀伊邸に直接行けば、怪しまれる危険性があるので、前のように左大臣邸からの方違えであるとの名目でやってきたのである。
遣水の面目 02134
もともと、左大臣邸から方違えとして選んだ理由が、初夏で暑さを避けるために、近頃水を引き入れた場所として中川の紀伊邸が選ばれたのであった。再度の訪問を得たのは、初回の訪問が気に入っていただいたおかげだが、もとをただせば、新たに遣水をもうけたことによる。それを指して「遣水の面目」としたのだろう。