御文は常にありされ 帚木15章04

2021-03-31

原文 読み 意味

御文は常にあり されど この子もいと幼し 心よりほかに散りもせば 軽々しき名さへとり添へむ 身のおぼえをいとつきなかるべく思へば めでたきこともわが身からこそと思ひて うちとけたる御答へも聞こえず ほのかなりし御けはひありさまは げに なべてにやはと 思ひ出できこえぬにはあらねど をかしきさまを見えたてまつりても 何にかはなるべきなど 思ひ返すなりけり 君は思しおこたる時の間もなく 心苦しくも恋しくも思し出づ 思へりし気色などのいとほしさも 晴るけむ方なく思しわたる 軽々しく這ひ紛れ立ち寄りたまはむも 人目しげからむ所に 便なき振る舞ひやあらはれむと 人のためもいとほしくと思しわづらふ

02133/難易度:☆☆☆

おほむ-ふみ/は/つね/に/あり されど この/こ/も/いと/をさなし こころ/より/ほか/に/ちり/も/せ/ば かろがろしき/な/さへ/とり-そへ/む み/の/おぼエ/を/いと/つきなかる/べく/おもへ/ば めでたき/こと/も/わが/み/から/こそ/と/おもひ/て うちとけ/たる/おほむ-いらへ/も/きこエ/ず ほのか/なり/し/おほむ-けはひ/ありさま/は げに なべて/に/やは/と おもひいで/きこエ/ぬ/に/は/あら/ね/ど をかしき/さま/を/みエ/たてまつり/て/も なに/に/か/は/なる/べき/など/おもひかへす/なり/けり きみ/は/おぼし/おこたる/とき/の/ま/も/なく こころぐるしく/も/こひしく/も/おぼし/いづ おもへ/り/し/けしき/など/の/いとほしさ/も はるけ/む/かた/なく/おぼし/わたる かろがろしく/はひ-まぎれ/たちより/たまは/む/も ひとめ/しげから/む/ところ/に びんなき/ふるまひ/や/あらはれ/む/と ひと/の/ため/も/いとほしく と/おぼし/わづらふ

お手紙は常にお寄せになる。しかし、この子もひどく幼い、うっかりして人目に触れることにでもなれば、ただでもつらいのに、浮名まで流しかねない世評を思うと、今の身の上にはひどく不似合に思え、ありがたい愛情もこちらの身分いかんによるのだと思って、心を許すようなご返事も差し上げない。おぼろげながらも拝しえた光の君の雰囲気やご様子は、噂に違わず、並みの人たりえようかと思い出し申さないでもないが、色よいふうをお見せしたところで、どうなる身でもないなどと思い直すらしかった。君は片時もお忘れになることがなく、心苦しくもあり恋しくもありながら思い出される。思いに沈んでいた様子など気がとがめられて、心を晴らすよしもないまま思いつづけになる。気軽にこっそり人に紛れて立ち寄ろうにも、人目の多いところで、具合のわるい振る舞いが露見しよう、そうなれば女のためにも申し訳が立たぬと思案に暮れていらっしゃる。

御文は常にあり されど この子もいと幼し 心よりほかに散りもせば 軽々しき名さへとり添へむ 身のおぼえをいとつきなかるべく思へば めでたきこともわが身からこそと思ひて うちとけたる御答へも聞こえず ほのかなりし御けはひありさまは げに なべてにやはと 思ひ出できこえぬにはあらねど をかしきさまを見えたてまつりても 何にかはなるべきなど 思ひ返すなりけり 君は思しおこたる時の間もなく 心苦しくも恋しくも思し出づ 思へりし気色などのいとほしさも 晴るけむ方なく思しわたる 軽々しく這ひ紛れ立ち寄りたまはむも 人目しげからむ所に 便なき振る舞ひやあらはれむと 人のためもいとほしくと思しわづらふ

大構造と係り受け

古語探訪

心よりほかに 02133

意図せず。

散りもせば 02133

散逸すると。

さへ 02133

Aに加えてBまで。

おぼえ 02133

評判。

つきなかる 02133

今の身分に不相応である。

めでたきこと 02133

光のような高貴な人から愛を受けること。

わが身からこそ 02133

こちらの身分次第で、すばらしくもつらくもなる。

うちとけたる 02133

親密なのほかに、光の愛の申し出によい返事をすること。そのような手紙を紛失しては困るということで、形式的な返事しかしないのである。

ほのかなりし御けはひありさま 02133

暗がりの中、恐怖でよくわからなかった光の様子。

なべてにやは 02133

平凡ではないという反語。

をかしきさまを見えたてまつり 02133

光の求婚に興味を示すこと。

何にかはなるべき 02133

どうなることでもない。

思しおこたる 02133

考えるのを休む。

思へりし気色 02133

空蝉が考え悩んでいる様子。

いとほしさ 02133

申し訳ない気持ち。

這ひ紛れ 02133

こっそり目立たぬよう。

便なきふるまひ 02133

葵という立派な正妻がありながら、中流階級の人妻に想いをかけていること。

あらはれむ 02133

公にひろまる。

人のため 02133

空蝉のため。

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