手を書きたるにも深 帚木06章07

2021-04-18

原文 読み 意味

手を書きたるにも 深きことはなくて ここかしこの点長に走り書き そこはかとなく気色ばめるは うち見るにかどかどしく気色だちたれど なほまことの筋をこまやかに書き得たるは うはべの筆消えて見ゆれど 今ひとたびとり並べて見れば なほ実になむよりける

02089/難易度:★☆☆

て/を/かき/たる/に/も ふかき/こと/は/なく/て ここかしこ/の/てんなが/に/はしりかき そこはかとなく/けしきばめ/る/は うち-みる/に/かどかどしく/けしきだち/たれ/ど なほ/まこと/の/すぢ/を/こまやか/に/かき/え/たる/は うはべ/の/ふで/きエ/て/みゆれ/ど いま/ひとたび/とり/ならべ/て/みれ/ば なほ/じち/に/なむ/より/ける

(左馬頭)字を書いた場合でも、深い意図などなくて、あちこちの点を書き流しどことなく気分を出している書は、ぱっと見には才気走り雰囲気があるようだけれど、やはりまことの筆法通りに細心の注意を払って書きえた書は、見た目のうまさこそ目につかないが、今一度とり並べて見るとやはり誠実な書に心は惹かれるのです。

文構造&係り受け

主語述語と大構造

  • ば…なほ実になむよりける 五次元構造

〈手を書きたる〉にも 深きことはなくて ここかしこの点長に走り書き そこはかとなく気色ばめる〈[書]〉は うち見るにかどかどしく気色だちたれ なほまことの筋をこまやかに書き得たる〈[書]〉は うはべの筆消えて見ゆれ 今ひとたびとり並べて見れ なほ実になむよりける

助詞と係り受け

手を書きたるにも 深きことはなくて ここかしこの点長に走り書き そこはかとなく気色ばめるは うち見るにかどかどしく気色だちたれど なほまことの筋をこまやかに書き得たるは うはべの筆消えて見ゆれど 今ひとたびとり並べて見れば なほ実になむよりける

「手を書きたるにも」→「なほ実になむよりける」


「深きことはなくて ここかしこの点長に走り書き そこはかとなく気色ばめるは うち見るにかどかどしく気色だちたれど」「なほまことの筋をこまやかに書き得たるは うはべの筆消えて見ゆれど」:対比

古語探訪

気色ばめる 02089

気取ってと解釈されているが、思うにまかせての意味。木の道や絵所の例では、「心にまかせて作り出だす/02086」や「心にまかせてひときは目驚かして/02088」に当たる。この部分は気取るでも通るので、風流気の多い木枯らしの女と結びつけて解釈されてきた。しかし、/02090で考察する通り「気色ばむ」はもともとある本心が外に現れること(馬脚を現すこと)であって、本心を見えなくさせる「気取るなど」とはおよそ正反対の意味である。指をくう女が「気色ばめる」例である。嫉妬心が外に現れて口さがなく、怒りにまかせるのが気色ばめるである。

手 02089

筆。

深きことはなくて 02089

深くは考えずに。「心にまかせて/02086・02088」に当たる。

点長に 02089

気分に任せて書くことのようだが、点が長くなるのか、点と筆をおいた後にスーっと筆を走らせることを言うのか、判明しない。

そこはかとなく 02089

場所や原因理由などははっきり指摘することができない状態を表す。この場合、この箇所、この箇所と場所を特定せずに。

かどかどしく 02089

才気走る。

まことの筋 02089

真実の筆法に沿うこと。

書き得たる 02089

うまく書けているのは。

うはべの筆 02089

見た目のうまさ。

なほ 02089

木の道や絵と同様、書の場合でもやはり。

実に 02089

丁寧な書き方。

より 02089

「因り」「依り」で、丁寧な書き方をしたからである。

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