このほどは大殿にの 帚木15章01

2021-03-31

原文 読み 意味

このほどは大殿にのみおはします なほいとかき絶えて 思ふらむことのいとほしく御心にかかりて 苦しく思しわびて 紀伊守を召したり かの ありし中納言の子は 得させてむや らうたげに見えしを 身近く使ふ人にせむ 主上にも我奉らむとのたまへば いとかしこき仰せ言にはべるなり 姉なる人にのたまひみむと申すも 胸つぶれて思せど その姉君は 朝臣の弟や持たる さもはべらず この二年ばかりぞ かくてものしはべれど 親のおきてに違へりと思ひ嘆きて 心ゆかぬやうになむ 聞きたまふる あはれのことや よろしく聞こえし人ぞかし まことによしやとのたまへば けしうははべらざるべし もて離れてうとうとしくはべれば 世のたとひにて 睦びはべらずと申す

02130/難易度:☆☆☆

この/ほど/は おほいどの/に/のみ/おはします なほ/いと/かき-たエ/て おもふ/らむ/こと/の/いとほしく/みこころ/に/かかり/て くるしく/おぼし/わび/て き-の-かみ/を/めし/たり かの ありし/ちうなごん/の/こ/は え/させ/て/む/や らうたげ/に/みエ/し/を みぢかく/つかふ/ひと/に/せ/む うへ/に/も/われ/たてまつら/む/と/のたまへ/ば いと/かしこき/おほせごと/に/はべる/なり あね/なる/ひと/に/のたまひ/み/む/と/まうす/も むね/つぶれ/て/おぼせ/ど その/あねぎみ/は あそむ/の/おとうと/や/も/たる さ/も/はべら/ず この/ふたとせ/ばかり/ぞ かく/て/ものし/はべれ/ど おや/の/おきて/に/たがへ/り/と/おもひ/なげき/て こころゆか/ぬ/やう/に/なむ きき/たまふる あはれ/の/こと/や よろしく/きこエ/し/ひと/ぞ/かし まこと/に/よし/や/と/のたまへ/ば けしう/は/はべら/ざる/べし もて-はなれ/て/うとうとしく/はべれ/ば よ/の/たとひ/にて むつび/はべら/ず/と/まうす

この頃は左大臣邸にばかりいらっしゃる。それでもやはり、あのまま全く消息つかめない状態で、女がどんな思いでいるのかと申し訳なくお気になされ、苦しみ思い悩んだ末に、紀伊守をお召しになった。「あの、先だっての中納言の子は、私に預けてもらえまいか。かわいらしく見えたので、身近で使ってみたいのだ。帝へもわたしから殿上童に差し上げよう」とおっしゃるので、「まことに畏れ多い仰せごとでございます。姉にあたる人に、仰せごと通りに伝えましょう」と紀伊守が申しあげるにも、胸に痛みをお感じになるが、「その姉君には、そなたの弟にあたる子はおありか」「それはございません。この二年ばかりここにこうしておりますが、親の定めた遺志にそむいたことを思い嘆いて、ここの暮らしが意に染まぬように聞いております」「いたわしいことだな。器量よしとの評判のあった人であったな。本当にきれいなの」とお尋ねになると、「悪くはございませんのでしょう。努めて近づかぬようよそよそしくしておりますもので、世に言う生さぬ仲の通り、親しくありませんから、何とも」と申し上げる。

このほどは大殿にのみおはします なほいとかき絶えて 思ふらむことのいとほしく御心にかかりて 苦しく思しわびて 紀伊守を召したり かの ありし中納言の子は 得させてむや らうたげに見えしを 身近く使ふ人にせむ 主上にも我奉らむとのたまへば いとかしこき仰せ言にはべるなり 姉なる人にのたまひみむと申すも 胸つぶれて思せど その姉君は 朝臣の弟や持たる さもはべらず この二年ばかりぞ かくてものしはべれど 親のおきてに違へりと思ひ嘆きて 心ゆかぬやうになむ 聞きたまふる あはれのことや よろしく聞こえし人ぞかし まことによしやとのたまへば けしうははべらざるべし もて離れてうとうとしくはべれば 世のたとひにて 睦びはべらずと申す

大構造と係り受け

古語探訪

大殿 02130

光の妻の実家である左大臣邸。

なほ 02130

妻の実家にいてもやはり。「いとほしく御心にかかり」にかかる。

いとかき絶えて 02130

空蝉との連絡がとれず、消息がつかめない状態。

中納言の子 02130

前には衛門督とあった人の子で、小君。父は中納言を兼任していたという設定。

ろうたげ 02130

かわいい。

主上 02130

帝。殿上童になれるように帝に取り計らうのである。

姉なる人 02130

空蝉。

胸つぶれて 02130

空蝉のことが話題にのぼったから。

朝臣の弟 02130

要するに、空蝉は子供ができるくらい夫である伊予介と仲がいいのか知りたいのである。

かくてものしはべれ 02130

文脈上限定した訳を与ええないが、具体的には、ここへ嫁いで来た、いっしょに生活するなどの意味となる。

親のおきて 02130

宮仕えに出すという亡父の遺志。これは本人の希望でもあった。

心ゆかぬ 02130

心が晴れない。亡父の遺志に背いたことのみならず、地方官の後妻という現在の境遇が不満である。

まことによろしや 02130

きれいだとの噂だが、本当なのとそのように問い返すことで、それとなく、見ず知らずであり、さほど関心があるわけではないことを伝えている。なかなかの心理劇だ。

けしうははべらず 02130

悪くない。

もて離れて 02130

努めて避ける。

うとうとしく 02130

疎遠。

世のたとひにて睦びはべらず 02130

「世のたとひ」が何かは不明であるが、継母と継子の関係は仲が悪いとか、男女の関係になる可能性があるから仲良くするなとなどの言い回しが当時あったのであろう。諸注の説明する通り、空蝉への関心の高さを逆にあぶりだしている。

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