02帚木08 木枯しの女

2020-10-11

02帚木 原文 08章117/134

さて また同じころ まかり通ひし所は 人も立ちまさり 心ばせまことにゆゑありと見えぬべく うち詠み 走り書き 掻い弾く爪音 手つき口つき みなたどたどしからず見聞きわたりはべりき 見る目もこともなくはべりしかば このさがな者をうちとけたる方にて 時々隠ろへ見はべりしほどは こよなく心とまりはべりき この人亡せて後 いかがはせむ あはれながらも過ぎぬるはかひなくて しばしばまかり馴るるには すこしまばゆく 艶に好ましきことは目につかぬ所あるに うち頼むべくは見えず かれがれにのみ見せはべるほどに 忍びて心交はせる人ぞありけらし
 神無月のころほひ 月おもしろかりし夜 内裏よりまかではべるに ある上人来あひてこの車にあひ乗りてはべれば 大納言の家にまかり泊まらむとするに この人言ふやう 今宵人待つらむ宿なむ あやしく心苦しきとて この女の家はた 避きぬ道なりければ 荒れたる崩れより池の水かげ見えて 月だに宿る住処を過ぎむもさすがにて 下りはべりぬかし もとよりさる心を交はせるにやありけむ この男いたくすずろきて 門近き廊の簀子だつものに尻かけて とばかり月を見る 菊いとおもしろく移ろひわたり 風に競へる紅葉の乱れなど あはれと げに見えたり 懐なりける笛取り出でて吹き鳴らし 蔭もよしなどつづしり謡ふほどに よく鳴る和琴を 調べととのへたりける うるはしく掻き合はせたりしほど けしうはあらずかし 律の調べは 女のものやはらかに掻き鳴らして 簾の内より聞こえたるも 今めきたる物の声なれば 清く澄める月に折つきなからず 男いたくめでて 簾のもとに歩み来て 庭の紅葉こそ 踏み分けたる跡もなけれなどねたます 菊を折りて 琴の音も月もえならぬ宿ながらつれなき人をひきやとめける 悪ろかめりなど言ひて 今ひと声 聞きはやすべき人のある時 手な残いたまひそなど いたくあざれかかれば 女いたう声つくろひて 木枯に吹きあはすめる笛の音をひきとどむべき言の葉ぞなき となまめき交はすに 憎くなるをも知らで また 箏の琴を盤渉調に調べて 今めかしく掻い弾きたる爪音 かどなきにはあらねど まばゆき心地なむしはべりし ただ時々うち語らふ宮仕へ人などのあくまでさればみ好きたるは さても見る限りはをかしくもありぬべし 時々にても さる所にて忘れぬよすがと思ひたまへむには 頼もしげなくさし過ぐいたりと心おかれて その夜のことにことつけてこそ まかり絶えにしか この二つのことを思うたまへあはするに 若き時の心にだに なほさやうにもて出でたることは いとあやしく頼もしげなくおぼえはべりき 今より後はましてさのみなむ思ひたまへらるべき 御心のままに 折らば落ちぬべき萩の露 拾はば消えなむと見る玉笹の上の霰などの 艶にあえかなる好き好きしさのみこそ をかしく思さるらめ 今さりとも 七年あまりがほどに思し知りはべなむ なにがしがいやしき諌めにて 好きたわめらむ女に心おかせたまへ 過ちして 見む人のかたくななる名をも立てつべきものなり と戒む 中将 例のうなづく 君すこしかた笑みて さることとは思すべかめり いづ方につけても 人悪ろくはしたなかりける身物語かな とて うち笑ひおはさうず

02帚木 原文 読みかな 対訳 117/134

イ:や行の「い」/エ:や行の「え」

《さて また同じころ まかり通ひし所は 人も立ちまさり》117
さて また/おなじ/ころ まかり/かよひ/し/ところ/は ひと/も/たち-まさり
「さてまた、同じ頃わたくしめの通っておりましたところは人品も格段にまさり、


《心ばせまことにゆゑありと見えぬべく うち詠み 走り書き 掻い弾く爪音 手つき口つき》117
こころばせ/まこと/に/ゆゑ/あり/と/みエ/ぬ/べく うち-よみ はしり-かき かい-ひく/つまおと てつき/くちつき
趣味の面でもまことに教養深いと誰もが思うように、歌もやすやすと詠み、字もさらさらと書き、ちょっと鳴らしてみる琴の爪音演奏の手ぶり歌いぶり、


《みなたどたどしからず見聞きわたりはべりき》117
みな/たどたどしから/ず/み/きき/わたり/はべり/き
みなこともなくこなして見せるのを幾度となく目にも耳にもして来たものです。


《見る目もこともなくはべりしかば このさがな者をうちとけたる方にて》118
みる/め/も/こと/も/なく/はべり/しか/ば この/さがな/もの/を/うち-とけ/たる/かた/にて
見た目も難はございませんでしたから、例のやかまし屋は気安い通いどころにとっておき、


《時々隠ろへ見はべりしほどは こよなく心とまりはべりき》118
ときどき/かくろへ/み/はべり/し/ほど/は こよなく/こころ/とまり/はべり/き
この女と時々人目を忍んで逢いびきしていましたうちはこれ以上ないほど惚れこんでおりました。


《この人亡せて後 いかがはせむ あはれながらも過ぎぬるはかひなくて》119
この/ひと/うせ/て/のち いかがは/せ/む あはれ/ながら/も/すぎ/ぬる/は/かひなく/て
例の女が亡くなってからはいかんせん、愛しくとも死んでしまっては頼み甲斐がなくて、


《しばしばまかり馴るるには すこしまばゆく 艶に好ましきことは目につかぬ所あるに うち頼むべくは見えず》119
しばしば/まかり/なるる/に/は すこし/まばゆく えん/に/このましき/こと/は/め/に/つか/ぬ/ところ/ある/に うち-たのむ/べく/は/みエ/ず
といって度々通い馴れるには目を覆いたくなるほどあだっぽく多情な質は性に合わぬところがあるため生涯の伴侶として頼める女には見えなくて、


《かれがれにのみ見せはべるほどに 忍びて心交はせる人ぞありけらし》119
かれがれ/に/のみ/みせ/はべる/ほど/に しのび/て/こころ/かはせ/る/ひと/ぞ/あり/け/らし
とだえがちにのみ姿をみせるうちに隠れて情を通わす男ができたらしいのです。


《神無月のころほひ 月おもしろかりし夜 内裏よりまかではべるに》120★★★
かむなづき/の/ころほひ つき/おもしろかり/し/よ うち/より/まかで/はべる/に
神無月の頃月の美しい夜に、内裏より退出いたしました折り、


《ある上人来あひてこの車にあひ乗りてはべれば 大納言の家にまかり泊まらむとするに》120
ある/うへびと/き/あひ/て/この/くるま/に/あひ-のり/て/はべれ/ば だいなごん/の/いへ/に/まかり/とまら/む/と/する/に
ある殿上人と行きあいわたしの牛車に途中まで相乗りすることなりましたので、大納言の家に出向いて宿る予定といたしましたところ、


《この人言ふやう 今宵人待つらむ宿なむ あやしく心苦しきとて》120
この/ひと/いふ/やう こよひ/ひと/まつ/らむ/やど/なむ あやしく/こころぐるしき/とて
この人が言うには「今宵人持ちしてる宿のことがどうにも気がかりで」と、


《この女の家はた 避きぬ道なりければ 荒れたる崩れより池の水かげ見えて 月だに宿る住処を過ぎむもさすがにて 下りはべりぬかし》120
この/をむな/の/いへ/はた よき/ぬ/みち/なり/けれ/ば あれ/たる/くづれ/より/いけ/の/みづ/かげ/みエ/て つき/だに/やどる/すみか/を/すぎ/む/も/さすが/に/て おり/はべり/ぬ/かし
折しも例の女の家が道沿いで避けることはならず、荒れた築地のくずれからは池に映った月影がのぞかれ、月ですら宿る住みかを素通りするのもさすがに心苦しくつい二人して降り立ってしまったのです。


《もとよりさる心を交はせるにやありけむ この男いたくすずろきて 門近き廊の簀子だつものに尻かけて とばかり月を見る》121★★☆
もとより/さる/こころ/を/かはせ/る/に/や/あり/けむ この/をとこ/いたく/すずろき/て かど/ちかき/らう/の/すのこ-だつ/もの/に/しり/かけ/て とばかり/つき/を/みる
あらかじめ示し合せておいたのでしょう、その男がひどく浮き浮きして、中門近くの廊の濡れ縁みたいなところへ尻をかけしばし月を眺めております。


《菊いとおもしろく移ろひわたり 風に競へる紅葉の乱れなど あはれと げに見えたり》122
きく/いと/おもしろく/うつろひ/わたり かぜ/に/きほへ/る/もみぢ/の/みだれ/など あはれ/と げに/みエ/たり
菊の花が霜にあたり趣き深い色に咲きひろがり、風と競って舞い散る紅葉の狼藉などああいいなと本当に心に沁みました。


《懐なりける笛取り出でて吹き鳴らし 蔭もよしなどつづしり謡ふほどに》123
ふところ/なり/ける/ふえ/とり/いで/て/ふき/ならし かげ/も/よし/など/つづしり/うたふ/ほど/に
男は懐に入れておいた笛を取り出して吹き鳴らし「月影もよし」と、宿決めの歌を笛の合間合間に少しずつ歌ううちに、


《よく鳴る和琴を 調べととのへたりける うるはしく掻き合はせたりしほど けしうはあらずかし》123
よく/なる/わごん/を しらべ/ととのへ/たり/ける うるはしく/かき-あはせ/たり/し/ほど けしう/は/あら/ず/かし
調べよき和琴をあらかじめ調子をあわせておいたと見え、男に合わせて合奏したその様は悪いものではありませんでした。


《律の調べは 女のものやはらかに掻き鳴らして 簾の内より聞こえたるも》124
いまめき/たる/もの/の/こゑ/なれ/ば きよく/すめ/る/つき/に/をり/つきなから/ず
律の調べは、女がやさしく演奏して簾の内から漏れてくるというのも、


《今めきたる物の声なれば 清く澄める月に折つきなからず》124
りち/の/しらべ/は をむな/の/もの-やはらか/に/かき-ならし/て す/の/うち/より/きこエ/たる/も
今風の音色に感じられるので清く澄んだその夜の月の光りに頃合いの風情でありました。


《男いたくめでて 簾のもとに歩み来て》125★☆☆
をとこ/いたく/めで/て す/の/もと/に/あゆみ/き/て
男はたいそう感心して簾近くに歩み寄り、


《庭の紅葉こそ 踏み分けたる跡もなけれなどねたます》125
には/の/もみぢ/こそ ふみ-わけ/たる/あと/も/なけれ/など/ねたま/す
「庭の紅葉こそ男の通った跡もないがあなたどうかな」などと嫉妬心を掻きたてる。


《菊を折りて》126★☆☆
きく/を/をり/て
色の移ろった菊を折って、

《琴の音も月もえならぬ宿ながら つれなき人をひきやとめける》126
こと/の/ね/も/つき/も/え/なら/ぬ/やど/ながら つれなき/ひと/を/ひき/や/とめ/ける
琴の音もよく月もさしこむ申し分ない宿なのですから、これまでつれない夫をひきとめて来たのでしょうね


《悪ろかめりなど言ひて》126
わろか/めり/など/いひ/て
どうやら分は悪そうに見えますなあ」などと言って、


《今ひと声 聞きはやすべき人のある時 手な残いたまひそなど いたくあざれかかれば》126
いま/ひと/こゑ きき-はやす/べき/ひと/の/ある/とき て/な/のこい/たまひ/そ/など いたく/あざれ-かかれ/ば
「もう一曲。聞いてよろこぶ人がある時に、弾き惜しみはなりませんぞ」などと、ひどく戯れかかったところ、


《女いたう声つくろひて》127
をむな/いたう/こゑ/つくろひ/て
女もひどく声を作って、


《木枯に吹きあはすめる笛の音を ひきとどむべき言の葉ぞなき》127
こがらし/に/ふき/あはす/める/ふえ/の/ね/を ひき/とどむ/べき/ことのは/ぞ/なき
人目も木の葉も枯らしてしまう木枯らしに、合わせてお吹きになっているようなはげしい笛の音を、ひいてとめさせる琴も言葉も持ち合わせておりませんわ


《となまめき交はすに 憎くなるをも知らで また 箏の琴を盤渉調に調べて》127
と/なまめき/かはす/に にくく/なる/を/も/しら/で また さう/の/こと/を/ばんしき-でう/に/しらべ/て
と、悩ましい歌を詠みかわすので、聞いてるこちらが業を煮やすのも知らず、お次はまた筝の琴を華やかな盤渉調で奏でるのですが、


《今めかしく掻い弾きたる爪音 かどなきにはあらねど まばゆき心地なむしはべりし》127
いまめかしく/かい-ひき/たる/つまおと かど/なき/に/は/あら/ね/ど まばゆき/ここち/なむ/し/はべり/し
今風に弾く爪音は才気を感じなくもなかったのですが、居たたまれない思いでした。


《ただ時々うち語らふ宮仕へ人などのあくまでさればみ好きたるは さても見る限りはをかしくもありぬべし》128
ただ/ときどき/うち-かたらふ/みやづかへ-びと/など/の/あくまで/さればみ/すき/たる/は さて/も/みる/かぎり/は/をかしく/も/あり/ぬ/べし
単に時々ちょっかいを出す宮仕えの女房などが、どこまでも物馴れた調子で男好きなのは、そのように付き合う限りには気をそそられするものですが、


《時々にても さる所にて忘れぬよすがと思ひたまへむには 頼もしげなくさし過ぐいたりと心おかれて》128
ときどき/にて/も さる/ところ/にて/わすれ/ぬ/よすが/と/おもひ/たまへ/む/に/は たのもしげ/なく/さし-すぐい/たり/と/こころおか/れ/て
時々であっても、しっかりとした通いどころとして忘れることのない連れ合いと思ってみますには、頼もしい感じはなく好きがましいにもほどがあるとつい気持ちが離れてしまい、


《その夜のことにことつけてこそ まかり絶えにしか》128
その/よ/の/こと/に/ことつけ/て/こそ まかり/たエ/に/しか
その夜のことにかこつけて通うのをぷっつりやめてしましました。


《この二つのことを思うたまへあはするに》129
この/ふたつ/の/こと/を/おもう/たまへ/あはする/に
この二つの例を考えあわせてみまするに、


《若き時の心にだに なほさやうにもて出でたることは いとあやしく頼もしげなくおぼえはべりき》129
わかき/とき/の/こころ/に/だに なほ/さやう/に/もて-いで/たる/こと/は いと/あやしく/たのもしげなく/おぼエ/はべり/き
若い時分の気持ちでさえやはりそのように出過ぎた真似は、とても危なっかしく頼もしからぬように思われたものです。


《今より後は ましてさのみなむ思ひたまへらるべき》130
いま/より/のち/は まして/さ/のみ/なむ/おもひ/たまへ/らる/べき
今より後には、ましてそうとしか考えようがないでしょう。


《御心のままに 折らば落ちぬべき萩の露 拾はば消えなむと見る玉笹の上の霰などの》131★☆☆
みこころ/の/まま/に をら/ば/おち/ぬ/べき/はぎ/の/つゆ ひろは/ば/きエ/な/む/と/みる/たまざさ/の/うへ/の/あられ/など/の
御心のままに手折ればこぼれ落ちてしまいそうな萩の上の露や、手にとれば消えてしまう笹の葉の上の霰のような、


《艶にあえかなる好き好きしさのみこそ をかしく思さるらめ》131
えん/に/あエか/なる/すきずきしさ/のみ/こそ をかしく/おぼさ/る/らめ
なまめかしくひ弱で色っぽい女性ばかりにご興味がおありでございましょうが、


《今さりとも 七年あまりがほどに思し知りはべなむ》131
いま/さりとも ななとせ/あまり/が/ほど/に/おぼし-しり/はべ/な/む
いまはそうでも七年あまりもたつうちにはきっとお分かりになっておられましょう。


《なにがしがいやしき諌めにて 好きたわめらむ女に心おかせたまへ》132
なにがし/が/いやしき/いさめ/にて すき/たわめ/らむ/をむな/に/こころ/おか/せ/たまへ
わたしごとき卑しい者のいさめに従い、男好きで浮気性の女には用心なさいませ。


《過ちして 見む人のかたくななる名をも立てつべきものなり と戒む》133
あやまち/し/て み/む/ひと/の/かたくな/なる/な/を/も/たて/つ/べき/もの/なり と/いましむ
他の男と過ちを犯して、世話する夫こそ間抜けたものだと評判まで立てずにはおかないものです」といさめる。


《中将 例のうなづく》134
ちゆうじやう れい/の/うなづく
頭中将は例のごとくうなずく。


《君すこしかた笑みて さることとは思すべかめり》134
きみ/すこし/かた-ゑみ/て さる/こと/と/は/おぼす/べか/めり
光の君はすこしうす笑いを浮かべながらもそうではあろうがとお思いのようだ。


《いづ方につけても 人悪ろくはしたなかりける身物語かな とて うち笑ひおはさうず》134
いづかた/に/つけ/て/も ひと/わろく/はしたなかり/ける/みものがたり/かな とて うち-わらひ/おはさうず
「誰の身に起きたとしても外聞悪くみっともない身の上話だな」とおっしゃり、みな思わずお笑いになった。

帚木 注釈 02-117/02-134

同じころ 02-117

「まだいと下臈にはべりし時/02-094」

所 02-117

女の意味。貴人の人数を数える数詞に用いるので、この表現からも、このエピソードの主人公である木枯の女の出自の良さがうかがわれる。

人も立ちまさり 02-117

人柄もまさると注されているが、指食いの女は嫉妬を除いては理想的な女であったのだから、それより人柄がよいとは考えにくい。人格面でなく、家柄・育ちのこと。「立ちまさり」はずっとすぐれる。

心ばせ 02-117

趣味や嗜好。心が向かう先の意味で、対象が人であれば思いやりの意味となり、対象が物であれば趣味の意味となる。

ゆゑあり 02-117

最高の教養。

見えぬべく 02-117

「見ゆ」+「ぬ」+「べし」。誰からもきっとそのように見られる。

手つき 02-117

琴の演奏方法。

口つき 02-117

(琴を弾きながらの)歌いぶり。

みな 02-117

みなの語義は、そこに居合わせたものすべて、即ち、限定された集団内の要素すべての意味である。従って、無限定に、何事につけという解釈は語義に合わない。みなの前に列記されているもの、どれもこれもの意味。

たどたどしからず 02-117

「たどたどし」は渋滞する感覚。文字通りでは、たどたどしくないの意味だが、否定を使ってへりくだった表現をしているが、実質はかなり積極的なほめ言葉である。「否定的小さな賞賛=肯定的大きな賞賛」という公式が多くの場合成り立つ。

わたり 02-117

長い時間をかけて見たり聞いたりした。

見るめ 02-118

見た目。

こともなく 02-118

大きな問題はない。「否定的小さな賞賛=肯定的大きな賞賛/02-117参照)。

このさがな者 02-118

例の口うるさい者、即ち、指食いの女。

うちとけたる 02-118

「まめまめしき筋を立てて耳はさみがちに美さうなき家刀自のひとへにうちとけたる後見ばかりをして/02-058」とあった。男女の距離感がなく、生きるための世話焼きのレベルで、貴族の精神基盤である文化面が欠如している。

隠ろへ見 02-118

人目を忍んで性的関係を結ぶ。

心とまり 02-118

惚れる。指を喰う女は「容貌などいとまほにもはべらざりしかば若きほどの好き心にはこの人をとまり(生涯連れ添うつもりの相手)にとも思ひとどめはべらず/02-095」とあり、対比的である。

02-119
◇「すこしまばゆく艶に好ましきことは目につかぬ所あるに」:「うち頼むべくは見えず」との判断理由

この人 02-119

指食いの女。

あはれ 02-119

愛情をいだく。

過ぎぬる 02-119

関係が終わる。死ぬ。「ぬる」は完了の助動詞。

まかり馴るるには 02-119

「には」は仮定条件。時間の経過を示すと解釈するなら「まかり馴れたるには」などとなるか。

まばゆく 02-119

正視に堪えない。

艶に 02-119

なまめかしい、色っぽい。指を喰う女が「艶なる歌も詠まず/02-110」とされていたのと対照的である。

好ましき 02-119

浮気っぽい。

目につかぬ 02-119

気に入らない。「心につかぬ」とほぼ同義だが、「まばゆく」の流れから「目につかぬ」としたのだろう。

うち頼む 02-119

伴侶として頼むこと。「うち」はすっかり。

かれがれ 02-119

途絶えがちに。

見せ 02-119

顔を見せる、姿を見せるの意味。訪問。

忍びて 02-119

こっそりと、左馬頭に隠れて。

けらし 02-119

助動詞で、過去に対する推定で、根拠がある場合に用いられることが多いとされる。現在推量の「らむ」と「らし」に対する、過去に対する推量「けむ」と「けらし」。

02-120
◇「まかではべるに/「に」:時、ちょうどその時に)→「あひ乗りてはべれば」 
◇「あひ乗りてはべれば」→「まかり泊まらむとする」 
◇「泊まらむとするに」→「この人言ふやう」 
◇「(心苦しき)とて/「て」:時間経過、そんなことを話していると折しも)→「下りはべりぬかし」

神無月 02-120

旧暦の十月、初冬にあたる。

おもしろかりし 02-120

美しかった。貴族の生活文化として、当然、今夜は男が女性の家を訪れることが期待される。

上人 02-120

殿上人。左馬頭が通っている妻(木枯の女)の浮気相手。ただし、牛車に乗り合わせた時点で左馬頭はもちろんそのことを知らない。左馬頭は左馬寮の長官で従五位相当。「上人」の動作に対して敬語が使用されていないことから、やはり従五位の同輩であろうと推定される。

大納言 02-120

左馬頭の関係はわからないが、左馬頭の父親かと推定されている。「あひ乗りてはべれば…泊まらむとする」という文章構造からは、本来、大納言宅に行く予定はなかったが、上人が乗り合わせたことが原因で行き先を大納言宅に変更したことが予想される。

この人 02-120

上人。

今宵 02-120

今夜のような月の美しい夜に。

人待つらむ宿 02-120

男が通って来ないかと待ち焦がれている女の家。雨夜の品定めの導入部で、頭中将が「おのがじし、恨めしき折々、待ち顔ならむ夕暮れなどのこそ、見所はあらめ/02-012」と光源氏の手紙を読みたがっていた件があった。「人待つらむ宿」も一種の言い回し。この表現に対しては古来さまざまな解釈がなされて来たが、いまだに定説はないようである。
問題を整理すると、一、「人待つらむ宿」の「人」は誰か。二、上人はどの時点で下車したのか。三、なぜ左馬頭は上人を制止もせず女の元を訪ねようとしたのか。などを矛盾無く説明する解釈がないようである。順に見て行くと、一「人待つ」は通ってくる男を待つ意味。月の美しい夜だから、こうした話題が出るのは自然であり、一般論と考えれば、左馬頭でも上人でも当てはまる。上人の狙いは、左馬頭を呼び込むことであるから、その意図さえ知られなければよいのである。二「とて」がかかる先は文末の「下りはべりぬかし」以外にないので、二人とも一緒に車を降りたとしか読めない。問題は三である。「男の訪れを待っている女の家が妙に気になると」言われた時に、左馬頭の脳裏に浮かんだことは、A「一般論として聞き流す」B「自分と女がばれているんじゃないかと心配する」C「女の存在を知っていてそういうのだから連れて行けと催促しているのか」などであろう。左馬頭のその後の行動と矛盾しないのは、Cの方向、すなわち、上人を女の元に連れて行こうと意図をもって車を降りる場合しかない。自分のモテぶりを自慢したい、自分の女がいかにいい女であるか自慢したい、そうした心理を利用されたのだ。

あやしく 02-120

連用修飾語として心苦しさの程度を強調するとも、中止法として男が通って来ない女の立場を指すとも解釈できる。前者であれば、不思議に、ひどくの意味になる。後者であれば、不都合な、みすぼらしくてなど。いずれにしても、普通でない様子を示す。

心苦しき 02-120

孤閨を守る女への同情心。気の毒に。

とて 02-120

上人が今宵の月の美しさから、こんな夜に夫の来ない女性は気の毒だなと漠然と言ったことと、二人で牛車から降り立つまでには時間的経過がある。それが「て」で表されている。上人は最初から左馬頭をコケにする意図があったろうが、左馬頭の側からはそれはまだわからない。

この女の家 02-120

左馬頭が通っている妻(木枯の女)の家。

はた 02-120

折しも、ちょうど。上人がそんな話をふと漏らしたことと、自分の足が遠のいた妻の家が大納言宅への通り道にあることが、偶然にも重なったことを意味する。従って、もともと左馬頭は妻の家に行くつもりはなかったのである。上人が来合わせたから大納言宅に行くことにした。その途次に女の家はあるが、上人が「人待つらむ宿」などの話をしなかったら、おそらく素通りしていたであろう。

避きぬ 02-120

避けることができない。

月だに宿る 02-120

月でさえの池の面に宿っている、まして夫である自分が通わないのはとの意味。左馬頭がこの箇所を話す際、自嘲的になっていれば、月かげに男のかげをかけて読むこともできる。

過ぎむも 02-120

この「も」は、通りすぎることを前提にしていたことを示す。

さすがに 02-120

「心苦しく」などが後ろに省略されている。

下りはべりぬかし 02-120

月は美しいし、妻の元にはしばらく通っていないし、上人が興味津々なら、人待ちしている宿に連れて行って、そねませてやるかくらいの意識でふたりで降り立ったのであろう。上人の意図と、左馬頭が持ち得ている情報量の少なさを考慮しないと、初めからこけにされるのを承知で、上人を妻のもとに連れて行ったかのような、わけのわからない解釈になってしまう。

もとよりさる心をかはせるにやりありけむ 02-121

「さる」は受けるものが不明であることを示す。とある。前もって女と何かたくらみはかっていたのだろうかの意味。解釈として大切なのは、なぜそのように左馬頭が感じたのか考えること。左馬頭としては、自分の妻を紹介する意図をもって、上人を案内する気でいたのに、勝手にふらふら門の方へ行って月を見ている様子に対して妙なことをすると不審に思ったに違いない。上人の前言「今宵人待つらむ宿なむ、あやしく心苦しき」を思い起こすなら、さきほど耳にした時は、自分に対して人待ちをしていると思ったが、さながら上人こそが待たれている感じがしたであろう。しかし、あまりに突飛な行動のため、男がとっている行動の意味を理解するには至ってはいない。そのことが「さる心」の「さる」にあらわれている。
なお、このあたり、現代小説ならもう少し描き込むことが求められよう。上人が変な振る舞いに出たら制止するのが普通であり、この後もただただ騙されているのは不自然に感じてしまう。しかし、当時の貴族意識ならあまりに当然のことであり、わざわざ描く必要を感じない雑事に左馬頭は手が塞がっていて、制止しようにもできなかったのである。現時点では上人の行動が理解できずいぶかしく思う程度だは思うが、最初の一歩が出遅れたがために受け身にまわってしまい、あれよあれよと夫の座から寝取られる男に転落してしまったのである。では、その出遅れる原因となった雑事とは何か。これを想像で埋めることが求められている。
「ある上人来あひてこの車にあひ乗りてはべれば大納言の家にまかり泊まらむとする/02-120」とあった。この箇所を聞いただけで光源氏たちは、急遽大納言宅に泊まることにしたのだから、先駆けを走らせるなど、さぞ大変だったであろうと想像したであろうし、急にまた牛車から降りたりしたら、随身などに状況を説明し、社会的にも認められるような行動変更の理由をねつ造し(女の家に泊まるからでは許されないだろう)、手紙にしたためなどして伝令を走らせる必要があったのだ。もちろん、妻の家に行くのでも、自分を迎える準備をさせるために、随身を走らせるなど、ここに描かれていない差配を左馬頭は行っているのである。そんなことに時間をとられている間に、上人は左馬頭の案内を待たず、ふらふら歩き出してしまったのである。こうした状況はわざわざ説明しなくても、光源氏にしても頭中将にしても十分理解したのだ。上人はうまくやったものだと関心すらしたであろう。女と念入りに立てた計画なのである。
繰り返すが、この時点では、様子がおかしいことには気づいたが、深くは疑っていない。「忍びて心交はせる人ぞありけらし/02-119」とあった。「心交はす」は交情する。浮気をするの意味であり、それは結果を知っているから出た言葉である。

すずろき 02-121

落ち着かず、気もそぞろになって。

廊 02-121

建物と建物をつなぐ屋根付きの渡り廊下。

簀子 02-121

濡れ縁。雨に濡れてもよいように板と板の間をあけてある。廊は屋根が付いているので、女のいる建物の屋根に見立てて、その濡れ縁に腰掛けている気分になっている。これも女と謀議して立てた演出であろう。

とばかり 02-121

しばらくの間。

うつろひ 02-122

菊が夜露を受けて色を増し、朝方には霜となって色変わりするのを楽しむ。

あはれ 02-122

風情がある。「月のおもしろかりし夜/02-120」に菊と紅葉が美しく映えているので。以下でもそうだが、上人と妻との関係を嫉妬しながらも、音楽や景色の美しさには感動するところが、左馬頭の個性である。ただし、この時点ではまだ妻の浮気を理解していないであろう。

げに 02-122

実際に、本当に。

02-123
◇「和琴を調べととのへたりける」:挿入句(「AのB連体形」の変形で「AをB連体形」。AとBは同格)

蔭もよし 02-123

催馬楽の曲「飛鳥井」の一節「飛鳥井に 宿りはすべし や おけ 蔭もよし…」。ここに泊まれたらいいなとの含意。これで嫉妬しないのだから、左馬頭はもともと嫉妬することがないのかもしれない。自分に嫉妬心がないから指を喰う女の嫉妬心も理解できなかったのかも知れない。

つづしり謡ふ 02-123

笛の合間合間に少しずつ歌う。

うるはしく 02-123

笛の音にきちんと合わせる。

律 02-124

「蔭もよし/02-123」の曲の調子。日本古来の曲で軽快な音楽とされている。

折つきなからず 02-124

その折りにあった、ふさわしい。

歩み来て 02-125

上人が女のいる簾の近くに歩み寄ること。「来る」はその対象が自分の側に近づく場合の使用が多いが、自分の側から遠のき念頭物に近づいてゆく場合も使われるので、必ずしも左馬頭が女の近くにいる必要はない。左馬頭の意識の岐点が、自分から女に移ったと読んでおく。ここからも、左馬頭の動揺が読み取れる。

庭の紅葉こそ踏み分けたる跡もなけれ 02-125

女が人待ちをしていて、通ってくる男がいないのをからかうと解釈されている。しかし、この解釈では「こそ……已然形」にした意味がなくなる。庭の紅葉こそは踏み分けられていないが、は踏み分けられた跡がありますねとの意味。もちろん、あなたの妻の体は私(上人)によって踏み分けられていて、その証拠もあるんだと、左馬頭に聞かせているのである。誰も通って来ないでは、左馬頭を「ねたます」ことにならない。ここで左馬頭は夫から、寝取られた男に突き落とされる。上人は左馬頭に対しては勝利宣言をし、女に対しては征服宣言したのである。

菊を折りて 02-126

「菊いとおもしろく移ろひわたり/02-122」とあった。色が移ろうは、夫の心変わりを含意する。

えならぬ 02-126

えも言われぬ(ほどすばらしい)。

つれなき人 02-126

冷淡な夫、左馬頭を指す。

ひきやとめける 02-126

「や」は疑問の投げかけ。実質は反語。

悪ろかめり 02-126

さまざまな解釈がなされている。押さえるべき点は、どういう状況を「悪ろし」というのか、誰にとって「悪ろし」か、「めり」とあるので、現在のことであり、視覚化しやすい状況等を考慮しなければならない。この語が歌の後にあるのだから、歌との関わりで解釈すのが一番自然である。歌意である「これまで(「けり」は過去からこの時点までの経過・継続)つれない夫を引き留められてきたのですか」という投げかけに対し、女の答えを待たずに、どうも状況は悪そうに見えると自答したのである。もちろん、左馬頭に聞かせるのが狙い。今頃のこのこやって来ても、この女はあなたを引き留めたりしないと言いたいのだ。女にあてつけている風をして、その実、左馬頭をこけにしたいのである。と考えるなら、「悪ろかめり」も左馬頭に聞かせる意図であったろう。もうこの状況ではあなたの立場はないという宣告となる。

聞きはやすべき人 02-126

「ききはやす」は「聞いて囃し立てる」の意味とし、対象は上人とされているが、「はやす」は「栄やす・映やす」(引き立てる)と、「囃す」(拍子をとって曲を盛り上げる)の意味をかけている。従って、その対象は、表面的には上人だろうが、左馬頭にあてつける意図が裏側にあることを見逃してはならない。上人本人のみで考えるならば、もう一曲所望したに過ぎず、「ひどくあざれかか」ることに結びつかない。普通、男女が歌を詠み交わす場合、紙に書いて交換するものである。しかし、ここでは男が詠いかけ、女がまた直接に詠み返している特殊な状況である。左馬頭の前で戯れ合っているに等しい。左馬頭に見られ、聞かれることで興奮を高めている。その二人の興奮を盛り立てる役が左馬頭なのだ。

木枯に 02-127

「風に競へる紅葉の乱れ/02-122」とあった。その折りの状況を下に敷く。

笛の音 02-127

上人が吹く笛に、女が言い返すことができないほど、つぎつぎに言葉を繰り出す上人の話しぶりをかける。

ひきとどむ 02-127

琴の調べで上人の笛の音をかき消すことと、夫を引き止めることと、上人の容赦のない言葉を打ち消すことををかける。

言の葉 02-127

「琴」と「言葉」をかける。なお、木枯が吹けば、男の通ったあとが庭に残っていよういまいが、落ち葉が舞い散り、跡は消えてしまうのだから、この点、女は男の和歌だけでなく、「庭の紅葉こそ」の発言にも答えたことになる。

なまめきかはす 02-127

和歌を取り交わすときに多く使用されると説明されるが、それだと、左馬頭は単なるナレーターとして状況を説明したに過ぎなくなる。左馬頭にとって、二人の和歌がなまめいて聞こえたと解釈したい。まず、なまめきかはすとは、異性に対してモーションをかけることであり、歌を直接口にしあうことがそもそも、他人が入りこめない蜜月状態にある。わたしの「言の葉」ではあなたの言葉を止められないと言いながらまた箏の琴を弾くのだから、聞かされる左馬頭にすれば何をか言わんやという思いであったろう。

箏の琴 02-127

中国伝来の十三弦の琴。琴の中でも大がかりだから、歌では引き留めえないといいながらも、上人の言葉に対抗し、さらに男を高ぶらせる意図がみえる。

盤渉調 02-127

現代風ではなやかな曲調とされている。

かどなきにはあらねど 02-127

才能。「その片かどもなき人はあらむや/02-023」という光源氏の質問があり、左馬頭はこの質問は直接聞いていないが、結果としてその答えになっている。

まばゆき 02-127

現代ではもっぱら光りについて言うが、光りに限らず、その刺激が続くことがつらいこと。この場合、上手いがその琴を聞きつづけるのが苦痛であるとの意味。

02-128
◇「宮仕へ人などのあくまでさればみ好きたる/AのB連体形):「をかしくもありぬべし」の主語

語らふ 02-128

異性との間では、愛のささやき。

さればみ 02-128

垢抜けした、都会的感覚。男女経験が豊か。

好きたる 02-128

風流を好む、男好きの。

さても見るべき 02-128

そういう状況下で付き合う。

さる所 02-128

ふさわしい所。しかるべき所。この場合は、雨夜の品定めの論点である、生涯の伴侶にふさわしい相手。「さる方のよすがに思ひてもありぬべきに/02-075」とあった。前後を補って解釈すると、男の浮気性を恨みカッとなって心が離れてしまうのも烏滸がましい限りで、たとえ心がふらふらしていても惚れた当初の愛情を大切に思う男は(誠実なのだから)、生涯のより所に思ってもみるべきなのに、そんなたじろぎから縁は絶えてしまうのは必定だ。これをもってくると、女に浮気癖があるからと言って、当初の愛情を持ち合わせているなら、誠実な証拠なのだから、生涯の伴侶に相応しいと思うべきだ、という論理になるはずであるが、左馬頭の結論は正反対である。理由は明記されていないが、前言とこの場面が違う点をいくつか列挙しておく。
一、浮気性にも限度があり、許されるものとそうでない場合がある。
一、浮気現場を見てしまっては話は別である。
一、女が同じことをするのは許せない。

よすが 02-128

頼りとするところ。より所。

さし過ぐしたり 02-128

行き過ぎである。この点から考えると、女の行動は、左馬頭の限度を超えていたということになろう。

心おかれ 02-128

自然と心理的に距離をおいてしまうこと。

ことつけて 02-128

ここつける。口実にする。

02-129
◇「あやしく」「頼もしげなく/並列)→「おぼえはべりき」

思うたまへあはする 02-129

考え合わせる。

だに 02-129

でさえ。若い時でさえそうなんだから、まして年を取った今は。

さやうに 02-129

木枯の女のように。

もて出でたる 02-129

「さし過ぐいたり/02‐128」に同じ。

あやしく 02-129

不自然、理解を超えている。形容詞の連用形+「おぼえ」:形容詞は「おぼえ」の内容(…と思われ)を表す。

今より後はまして 02-130

「若き時の心だに/02-129」と呼応。

さのみ 02-130

「さやうにもて出でたることはいとあやしく頼もしげなく/02-129」を受ける。

折らば落ちぬべき萩の露 02-131

萩はそうでなくとも散りやすいのに、手折ろうとすると、その前に落ちてしまいそうな荻の上の露。薄幸の人である夕顔を暗示する。「あえかなる好き好きしさ」を象徴する。「折りて見ば落ちぞしぬべき秋萩の枝もたわわに置ける白露/古今集巻四秋・読人知らず)を引く。

拾はば消えなむと見る玉笹の上の霰 02-131

拾い取ろうとすると消えてしまうように見える笹の上の霰。対句の関係から「艶」を象徴すると考えられる。元は漢詩のようだが不明。艶であり、掌中にいれながら、自分のものにはならなかった朧月夜を暗示する。

七年あまりがほど 02-131

頭中将や光源氏よりも左馬頭は七歳上と注釈されるがあやしいと思う。左馬頭が「若き時の心だに/02-129」そう思ったのであり、七年間かけてこの達観を手に入れたわけではない。これは光源氏の七年後あたりを想定した発言と思われる。現在光源氏は十七歳。二十四歳頃のできごとで生涯に関わるとすれば、朱雀帝(光源氏の兄で弘徽殿の女御の息子である)の寵愛を一身に集めた朧月夜内侍(弘徽殿の女御の妹)との関係が発覚し、須磨流しに結びつくのが二十五歳の時。上の流れからすると、この事件と関わると読むのが自然であろう。

たわめ 02-132

寄るとすぐ崩れかかるようななよなよした感じ。「玉笹/02‐131」のイメージ。

心おかせ 02-132

距離をおく、用心する。

02-133
◇「見む人のかたくななる/AのB連体形、「の」は主格)→「名」

過ちして 02-133

女が他の男と浮気して。上人と浮気をした木枯の女の例を踏まえる。

見む人 02-133

女が世話をしている相手である夫。木枯の女の例では左馬頭。

かたくな 02-133

固く曲がってしまって直せないが原義。不体裁極まりない。「かかるすきごとどもを末の世にも聞きつたへて軽ろびたる名をや流さむと忍びたまへる隠ろへごとを/02-001」と通底する。

立てつべきものなり 02-133

「立て」は他動詞、きっと立てるに違いないものだ。

さることとは思すべかめり 02-134

そうとはお思いになりながら。後に「ながら」など、でもねという否定のニュアンスが省略されている。

いづ方につけても 02-134

これらのエピソードがどの人の身に起こった仮定しても。

人わろく 02-134

人目が悪い。

はしたなかり 02-134

ザマがない。

おはさうず 02-134

(複数の貴人が)いらっしゃる。

2020-10-11

Posted by 管理者