童にはべりし時女房 帚木05章05
原文 読み 意味
童にはべりし時 女房などの物語読みしを聞きて いとあはれに悲しく心深きことかなと涙をさへなむ落としはべりし 今思ふには いと軽々しくことさらびたることなり
02066/難易度:☆☆☆
わらは/に/はべり/し/とき にようばう/など/の/ものがたり/よみ/し/を/きき/て いと/あはれ/に/かなしく/こころふかき/こと/かな/と/なみだ/を/さへ/なむ/おとし/はべり/し いま/おもふ/に/は いと/かるがるしく/ことさらび/たる/こと/なり
(左馬頭)子供時分、侍女などが物語りを読むのを聞いて、たいそう心打たれ悲しくなんと情の深いことかと涙まで落としたものですが、今に思えばいかにも浅はかでわざとらしい所業です。
文構造&係り受け
主語述語と大構造
- をさへなむ落としはべりし 三次元構造|ことなり 三次元構造
〈[左馬頭]〉/童にはべりし時 女房などの物語読みしを聞きて いとあはれに悲しく心深きことかなと涙をさへなむ落としはべりし/|/今思ふには いと軽々しくことさらびたることなり/
助詞と係り受け
童にはべりし時 女房などの物語読みしを聞きて いとあはれに悲しく心深きことかなと涙をさへなむ落としはべりし 今思ふには いと軽々しくことさらびたることなり
「挿入の定義再び」を参照。「/02065と/02068」の間にあり、主語述語など文の要素に欠如がない。従って、この二文はそれぞれ挿入である。
「童にはべりし時…落としはべりし」:挿入
「今思ふには…ことさらびたることなり」:挿入
古語探訪
ことさらびたる 02066
わざとらしい。
心深きことかな 02066
後の「心深しや/02068」と呼応する。この言葉がきっかけとなって尼になる決意をする。男への愛情が深い。それだけに業も深い。
〈テキスト〉〈語り〉〈文脈〉の背景
お涙ちょうだいモノ 02066
純情路線の女が耐えるだけ耐えて、ある一線を越えたら隠れてしまい、何かのきっかけで尼になったりする、昔物語にありがちなパターンの女性に対する、左馬頭の批判。おそらく当時、安易に尼になる女性が増えていたのだろう。