あまりのゆゑよし心 帚木05章03
原文 読み 意味
あまりのゆゑよし心ばせうち添へたらむをばよろこびに思ひ すこし後れたる方あらむをもあながちに求め加へじ うしろやすくのどけき所だに強くは うはべの情けはおのづからもてつけつべきわざをや
02064/難易度:☆☆☆
あまり/の/ゆゑ/よし/こころばせ/うち-そへ/たら/む/を/ば/よろこび/に/おもひ すこし/おくれ/たる/かた/あら/む/を/も/あながち/に/もとめ/くはへ/じ うしろやすく/のどけき/ところ/だに/つよく/は うはべ/の/なさけ/は/おのづから/もてつけ/つ/べき/わざ/を/や
(頭中将)そのほかの生まれや育ち気立てのよさが備わっているならもっけの幸いと思い、すこし至らないところがあろうと無理な要求を加えたりしない。信頼がおけておっとりしたところさえ目立ってあれば、表面的なやさしさなどは自然と身につけてしまえるものですからね。
文構造&係り受け
主語述語と大構造
- をば…に思ひ…をも…求め加へじ 二次元構造|は…は…もてつけつべきわざをや 二次元構造
〈[妻]〉あまりのゆゑよし心ばせうち添へたらむをばよろこびに思ひ すこし後れたる〈方〉あらむをもあながちに求め加へじ うしろやすくのどけき〈所〉だに強くは うはべの情けはおのづからもてつけつべきわざをや
助詞と係り受け
あまりのゆゑよし心ばせうち添へたらむをばよろこびに思ひ すこし後れたる方あらむをもあながちに求め加へじ うしろやすくのどけき所だに強くは うはべの情けはおのづからもてつけつべきわざをや
「あながちに求め加へ」「おのづからもてつけつべき」:対の表現
「求め加へじ」:連用中止法
古語探訪
あながちに求め加へじ 02064
無理に求めたり、身につけさせようとはしない。頭中将の前言「ただひたふるに子めきて柔らかならむ人をとかくひきつくろひてはなどか見ざらむ心もとなくとも直し所ある心地すべし/02059」の撤回。
あまり 02064
余分なものとしての。
ゆゑ 02064
最高の教養や生まれ。
よし 02064
最高には劣るが高い教養や生まれ。
心ばせ 02064
心配り。
うち添へたらむ 02064
「ものまめやかに静かなる心のおもむき」に「あまりのゆゑよし心ばせ」が付属していたら。
後れたる方 02064
至らぬ点。
うしろやすく 02064
離れていても安心できる。
うはべの情け 02064
表面的な愛情や情感。美しい身のこなし・手紙の書き方・声の出し方など、人間関係の潤滑油となるものの、後で加えることができる。
おのづから 02064
「あながちに求め加へ」に対して「おのづからもてつけつべき」と対比的に用いられている。前者が強制的に外部から変更を加えることであるから考え、「おのづから」は意図せず知らないうちに、いつのまにかというニュアンスになる。
わざ 02064
その傾向が強いこと。
をや 02064
「もてつけつべきわざをや」は後にかかる語句がないので、文末と考える。間助詞「を」+間助詞「や」は、文末で詠嘆を表す。