いと口惜しくねぢけ 帚木05章02
〈テキスト〉を紡ぐ〈語り〉の技法
交差禁止 02063
「ただ」は前文では述語「よらじ」「言はじ」にかかるので、ここも述語にかかると考えてよさそうであるが、交差禁止の大原則に違反する。Aは意味上Cにかかる。A→C。従って、AからC内の要素は交差が禁じられているので外に出られず、Bは必然的にCにかかることになる。情報の中心もこの文では末尾の「思ひおくべかりける」にあるのではなく、「ひとへにものまめやかに静かなる心のおもむきならむよるべ」にあり、「ただ」はここにかけるのが自然なのだ。「ただ…をぞ」で係り結びの強調と呼応していることからもそれが自然だとわかる。
耳からの情報伝達;立ち現れる〈モノ〉
語りの対象:妻候補/発言者(頭中将)
直列型:A→B→C→D:A→B→C→D
《いと口惜しくねぢけがましきおぼえだになくは》A
ひどく後悔するほど性根のねじけた感じさえなければ、
《ただ・ひとへにものまめやかに静かなる心のおもむきならむよるべをぞ・つひの頼み所には思ひおくべかりける》B・C・D
ただもう主婦業に誠実でおだやかな性格の女を、生涯の伴侶には決め置くのがよろしいでしょう。
- 〈直列型〉→:修飾 #:倒置
- 〈分岐型〉( ):迂回 +:並列
- 〈中断型〉//:挿入 |:文終止・中止法
- 〈反復型〉~AX:Aの言換えX ,AB:Aの同格B
- 〈分配型〉A→B*A→C
A→B:AはBに係る
Bの情報量はAとBの合算〈情報伝達の不可逆性〉
※係り受けは主述関係を含む
※直列型は、全型共通のため単独使用に限った