さしあたりてをかし 帚木05章19
原文 読み 意味
さしあたりて をかしともあはれとも心に入らむ人の 頼もしげなき疑ひあらむこそ 大事なるべけれ
02080/難易度:☆☆☆
さしあたり/て をかし/と/も/あはれ/と/も/こころ/に/いら/む/ひと/の たのもしげ/なき/うたがひ/あら/む/こそ だいじ/なる/べけれ
(頭中将)実際のところきれいだの愛しいだのと気に入っている女に生涯を託すに足りぬ疑いがあればそれこそ一大事でしょうが、
文構造&係り受け
主語述語と大構造
- こそ大事なるべけれ 二次元構造
さしあたりて をかしともあはれとも心に入らむ〈人〉の 頼もしげなき疑ひあらむこそ 大事なるべけれ
助詞と係り受け
さしあたりて をかしともあはれとも心に入らむ人の 頼もしげなき疑ひあらむこそ 大事なるべけれ
「さしあたりて」→「頼もしげなき疑ひあらむこそ大事なるべけれ」
「人の…疑ひあらむ」:AのB連体形(同格)
古語探訪
頼もしげなき疑ひ 02080
浮気との解釈があるが、そうではなく、生涯の伴侶としてふさわしくないのではないかとの疑いを意味する。葵の上に対して光源氏が生涯を託すに足る相手ではないと感じていることを、兄である頭中将は察してこう言っている。しかし、ここは頭中将の思いを離れ、言葉をそのまま受け止めると、紫の上以下、光源氏が愛情を注ぐすべての女性たちにすべて成り立つ話である。女四の宮は、消極的ながら柏木との間違いを犯すことになるし、紫の上も薫の君から好奇なまなざしを浴びている。やはりこれも、「(言=事)構造」になっている。
さしあたりて 02080
抽象論をより身近な緊迫した問題として引き寄せる場合に使用するつなぎ言葉。話者が頭中将に変わり、妹で光源氏の正室である葵の上を念頭にした発言である点に留意したい。頭中将の心中としては、光源氏と妹の関係はうまく行っていない。しかし、元来が政略結婚なのだから、縁が切れては困る。その対処法を頭中将は提案する。
をかしともあはれとも心に入らむ人の 02080
光源氏が葵の上に抱いている感情とは齟齬するが、ここは一般論とみるべきだろう。「さしあたりて」はこの部分を飛び越えて次にかかる。「心に入らむ」は、気に入る。「人」は、男でなく女。具体的には、葵の上。