とあればかかりあふ 帚木04章06

2021-04-18

原文 読み 意味

とあればかかりあふさきるさにて なのめにさてもありぬべき人の少なきを 好き好きしき心のすさびにて 人のありさまをあまた見合はせむの好みならねど ひとへに思ひ定むべきよるべとすばかりに 同じくはわが力入りをし直しひきつくろふべき所なく 心にかなふやうにもやと 選りそめつる人の定まりがたきなるべし

02052/難易度:★★☆

とあれば-かかり/あふさきるさ/にて なのめ/に/さても/あり/ぬ/べき/ひと/の/すくなき/を すきずきしき/こころ/の/すさび/にて ひと/の/ありさま/を/あまた/みあはせ/む/の/このみ/なら/ね/ど ひとへ/に/おもひ/さだむ/べき/よるべ/と/す/ばかり/に おなじく/は/わが/ちからいり/を/し/なほし/ひきつくろふ/べき/ところ/なく こころ/に/かなふ/やう/に/も/や/と えりそめ/つる/ひと/の/さだまり-がたき/なる/べし

(頭中将)こちらがよくても向こうがだめという具合に思いにまかせぬもので、不充分ながらそのままでこと足りる人が少ないのが原因であって、浮ついた気持ちで面白半分に、女の生態を数多く見比げようとの趣味からではないのだけれど、ひたすら生涯の伴侶を決定せねばと思いつめるばかりに、どうせならわざわざこちらが骨折りして直し改めねばならないところなどなく、意にかなう風であればと、選んでかかる人は決まりにくくなってしまうものなのです。

文構造&係り受け

主語述語と大構造

  • の定まりがたきなるべし 四次元構造

とあればかかり あふさきるさにて なのめにさてもありぬべき〈人〉の少なき 好き好きしき心のすさびにて 人のありさまあまた見合はせむの好みならね ひとへに思ひ定むべきよるべとすばかり 同じくはわが力入りをし直しひきつくろふべき〈所〉なく 心にかなふやうにもや 選りそめつる〈人〉の定まりがたきなるべし

助詞と係り受け

とあればかかりあふさきるさにて なのめにさてもありぬべき人の少なきを 好き好きしき心のすさびにて 人のありさまをあまた見合はせむの好みならねど ひとへに思ひ定むべきよるべとすばかりに 同じくはわが力入りをし直しひきつくろふべき所なく 心にかなふやうにもやと 選りそめつる人の定まりがたきなるべし

「とあればかかりあふさきるさにて」→「(さてもありぬべき人の)少なき(を)」(「を」は逆接を表す接続助詞、詠嘆の終助詞も可、その場合ここで文を切る)


「さてもありぬべき人の少なきを」→「選りそめつる」(長い挿入を挟むことに注意)


「あまた見合はせむの好みならねど」→「選りそめつる」


「ひとへに思ひ定むべきよるべとすばかりに」→「選りそめつる」


「同じくはわが力入りをし」「直しひきつくろふべき」(並列)→「所なく」

古語探訪

とあればかかり 02052

一方がこうなれば、他方もこうなる。

あふさきるさにて 02052

あちらがよけらば、こちらが悪く

なのめに 02052

不充分ながらも。

さてもありぬべき 02052

そのままでかまわない。

すさび 02052

もてあそび。

よるべ 02052

頼みとする相手、夫、妻。

わが力入りをし直しひきつくろふ 02052

無理に矯正する。

〈テキスト〉〈語り〉〈文脈〉の背景

頭中将の女性観の揺れ 02052

欠点ある場合には強制してでも直すといったが欠点はできればない方がいいという発言には、頭中将の女性観が如実に表れている。この後見るように、この女性観は左馬頭によって否定される。

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