されど賢しとても一 帚木04章04
原文 読み 意味
されど賢しとても 一人二人世の中をまつりごちしるべきならねば 上は下に輔けられ 下は上になびきて こと広きにゆつろふらむ
※「譲ろふらむ」の原文を改めた。語注参照。
02050/難易度:☆☆☆
されど/かしこし/とて/も ひとり/ふたり/よのなか/を/まつりごち/しる/べき/なら/ね/ば かみ/は/しも/に/たすけ/られ しも/は/かみ/に/なびき/て こと/ひろき/に/ゆつろふ/らむ
(左馬頭)といって大人物がいくら優れていても、一人二人で世の中を治めるなどできはしないので、上の者は下の者の輔佐を受け下の者は上の徳に靡いて少数の為政者から世間へと事が広まり行くのでしょう。
文構造&係り受け
主語述語と大構造
- 広きにゆつろふらむ 四次元構造
〈[国の柱石]〉されど賢しとても 一人二人世の中をまつりごちしるべきならねば 〈上〉は下に輔けられ 〈下〉は上になびきて 〈こと〉広きにゆつろふらむ
助詞と係り受け
されど賢しとても 一人二人世の中をまつりごちしるべきならねば 上は下に輔けられ 下は上になびきて こと広きにゆつろふらむ
古語探訪
下は上になびき 02050
徳による順化、すなわち、草が風になびくように上の者の徳に下の者が靡くの意味、斐然嚮風(漢賈誼『過秦論』)。
こと 02050
「もの」が人為では変更不可能な存在を示唆するのに対して、「こと」は人為の範囲にある事柄である。ひとつは「言」で命令など、ひとつは「事」で務め、儀式などが範疇に入る。美風と考えればよいかと思う。
広きに 02050
ヒエラルキーの上位にいる少数者から下位の多数者である民草へ広がること。
ゆつろふ 02050
移って行く。移るの意味の「ゆつる」に、進行の「ふ」がついた形。譲るの意味では「ゆづらふ・ゆつらふ」である。意味からは「譲り合う」で通らないでもないが、上が下に譲ることは、時代意識に反する。やはり「移る」の意味であろう。
〈テキスト〉〈語り〉〈文脈〉の背景
妻選びの基準 02050
柱石は妻で、婿が君子に当たる。頭中将の妻選びはえり好みの要素が強いが、左馬頭は家を栄えさせることを中心に考え、家の者(下の者)を取り仕切る能力を妻選びの重要要素と考えている。「足らはで悪しかるべき大事どもなむかたがた多かる/02051」や「わが心と思ひ得ることなく深きいたりなからむはいと口惜しく頼もしげなき咎や/02060」。さらには、妻を大事を相談する相手との認識も強い。「あやなきおほやけ腹立たしく心ひとつに思ひあまることなど多かるを何にかは聞かせむと思へば/02060」「さるべきことをも言ひやり/02061」。