すぐれて疵なき方の 帚木03章13

2021-04-18

原文 読み 意味

すぐれて疵なき方の選びにこそ及ばざらめ さる方にて捨てがたきものをは とて式部を見やれば わが妹どものよろしき聞こえあるを思ひてのたまふにやとや心得らむ ものも言はず

02044/難易度:★★☆

すぐれて/きず/なき/かた/の/えらび/に/こそ/およば/ざら/め さる/かた/にて/すて-がたき/もの/を/は とて/しきぶ/を/みやれ/ば わが/いもうと-ども/の/よろしき/きこエ/ある/を/おもひ/て/のたまふ/に/や/と/や/こころう/らむ もの/も/いは/ず

(左馬頭)特に瑕ひとつない女性をえらぶには及びはしなかろうが、これはこれで捨てがたいものではないか、と言って式部を見やると、自分の姉妹たちがなかなか評判高いのを念頭にしてお言いかと受け取っているらしい、ものも言わない。

文構造&係り受け

主語述語と大構造

  • ば…も言はず 四次元構造

〈[女]〉すぐれて疵なき方の選びにこそ及ばざらめ さる方にて捨てがたきものをは とて〈[左馬頭]〉式部を見やれ /〈[式部]〉わが妹どもよろしき〈聞こえ〉あるを〈[左馬頭]〉思ひてのたまふにやや心得らむ/ 〈[式部]〉ものも言はず

助詞と係り受け

すぐれて疵なき方の選びにこそ及ばざらめ さる方にて捨てがたきものをは とて式部を見やれば わが妹どものよろしき聞こえあるを思ひてのたまふにやとや心得らむ ものも言はず

「わが妹どものよろしき聞こえあるを思ひてのたまふにやとや心得らむ」(挿入):語り手による式部が「ものも言はず」の理由の推測


「妹どものよろしき聞こえある」:AのB連体形、同格の「の」(「ある」の主語は「聞こえ」、従って主格の席はなく、「の」は同格となる。)

古語探訪

さる方にて 02044:二通りの解釈

二通りの解釈がありえよう。「さる方」は「さある方」つまりそうある・そう認められるの意である。現代語の「それなり」は価値を低くみるが、ここは「なかなか」「相当」などのプラス評価である。今ひとつは、その方面の女として見る場合にはの意味。上々の女とはいかないが、このランクとしてはの意味。こちらの方が、「方」の意味を汲んでいると思う。

をは 02044:さまざまな解釈

「相手の言葉に反発し、異論を差し挟む表現」、「一種の強めの意味」、「詠嘆の終助詞」などと説明される。直前の「こそ……已然形」と呼応して「AにはだめでもBならいいじゃないか」という呼応関係で、最善ではないものの次善の提案とみておく。

わが妹どものよろしき聞こえあるを思ひてのたまふにや 02044:議論から登場人物へと視点が移動し次のステップへ

左馬頭の女性論の中で、「世にありと人に知られず…さる方にて捨てがたきものをは/02041~02044」は唯一好色めいたものであり、その好色性をもって妹を見られたくないという藤式部丞の心理が働いたのがこの箇所。左馬頭によって夕顔階級の女性の魅力が暗示され、藤式部丞の心の揺れによってその存在感が実体化され、これらを前置きにして、頭中将がいよいよ夕顔について語り出す。だが、光源氏はさして興味を示していない。興味を示していないからこそ、深層心理に深く刻まれて行くのだと思う。光源氏の意図しないところで、語り起こされ運命に引き込まれて行くところに物語りのダイナミズムがある。

すぐれて瑕なき方の選び 02044

正妻を選ぶ際にはの意味であろう。正妻選びには家柄・権勢などの他の要素が必要である。なお、「すぐれて」は一語の副詞で、特にの意味。

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