ただうはべばかりの 帚木02章10

2021-04-18

原文 読み 意味

ただうはべばかりの情けに手走り書き をりふしの答へ心得てうちしなどばかりは 随分によろしきも多かりと見たまふれど そもまことにその方を取り出でむ選びに かならず漏るまじきは いと難しや

02018/難易度:★☆☆

ただ/うはべ/ばかり/の/なさけ/に/て/はしりかき をりふし/の/いらへ/こころえ/て/うち-し/など/ばかり/は ずいぶん/に/よろしき/も/おほかり/と/み/たまふれ/ど そも/まこと/に/その/かた/を/とりいで/む/えらび/に かならず/もる/まじき/は いと/かたし/や

(頭中将)ただうわべばかりの愛情からさらさらと文字を書きちらし、時節に応じた応答のこつを心得てさっと返書をしたためるぐらいのことは、そこそこできる女も多いように見えますが、そもまことに妻選びの候補として決して漏れるおそれのない女性は先ずもっていないものですよ。

文構造&係り受け

主語述語と大構造

  • は…難しや 五次元構造

〈[女性]〉ただうはべばかりの情けに手走り書き をりふしの答へ心得てうちしなどばかりは 随分によろしきも多かり〈[男]〉見たまふれ そもまことにその方を取り出でむ選び かならず漏るまじき〉は いと難しや

助詞と係り受け

ただうはべばかりの情けに手走り書き をりふしの答へ心得てうちしなどばかりは 随分によろしきも多かりと見たまふれど そもまことにその方を取り出でむ選びに かならず漏るまじきは いと難しや

「うはべばかりの情けに手走り書き」「をりふしの答へ心得てうちし」(並列):→「見たまふれ(ど)」

古語探訪

ただうはべばかりの情け 02018:先天性と後天性

うわべの愛情の意味。風流気取りの意味ではない。「はかなきついでの情け/02057(左馬頭)」、「うはべの情け/0206(頭中将)」、「見る目の情け/02090(左馬頭)」いずれも、傍目からは情け深く見えるものの、内実はそうではないので、真に頼りとはできないことをいう。特に混乱が起きているのは、指を喰う女は嫉妬心は強いものの、男のためになんでもする情愛深い女であるため、このカテゴリーから外して解釈されているが、間違いである。この女は恨みが本心で、深い愛情はその上につけたものである。だから、愛情が深くとも本心である恨みを消すことはできなかったのだ。この点を逃すと、左馬頭の発言の多くを曲解してしまう。/02090でまた触れたい。

その方を取り出でむ選び 02018:妻選び

手紙の上手な人を決める選択と解釈されているが、ナンセンスである。頭中将の発言のテーマは、(妻として)非の打ち所のない女は探してもいないというもの。手紙の名手を探しているのではない。いくら手紙がうまくったって、うわべの愛情から出たものは信用ができないとの意味である。

随分に 02018

身分の高い人は高い人なりに、低い女は低いなりにの意味。ただし、主な意識は貴人にある。

よろしき 02018

まあよいの意味。よし・よろし・わろし・あしの順。

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