すべて男も女も悪ろ 帚木11章01
- 1. 原文 読み 意味
- 1.1. 大構造と係り受け
- 1.1.1. 古語探訪
- 1.1.1.1. 悪ろ者 02116
- 1.1.1.2. いとほし 02116
- 1.1.1.3. 三史五経 02116
- 1.1.1.4. 道々しき 02116
- 1.1.1.5. 悟り明かさむ 02116
- 1.1.1.6. 愛敬 02116
- 1.1.1.7. などかは…あらむ 02116
- 1.1.1.8. 世にあることの公私につけて 02116
- 1.1.1.9. むげに…否定語 02116
- 1.1.1.10. いたらず 02116
- 1.1.1.11. わざと 02116
- 1.1.1.12. 習ひまねばねど 02116
- 1.1.1.13. かど 02116
- 1.1.1.14. 耳にも目にもとまる 02116
- 1.1.1.15. さるままに 02116
- 1.1.1.16. 真名 02116
- 1.1.1.17. さるまじき 02116
- 1.1.1.18. どち 02116
- 1.1.1.19. なかば過ぎて 02116
- 1.1.1.20. あなうたて 02116
- 1.1.1.21. この人 02116
- 1.1.1.22. たをやか 02116
- 1.1.1.23. 心地には 02116
- 1.1.1.24. さしも 02116
- 1.1.1.25. こはごはしき 02116
- 1.1.1.26. なされ 02116
- 1.1.1.27. ことさらび 02116
- 1.1.1.28. 上臈 02116
- 1.1.1. 古語探訪
- 1.1. 大構造と係り受け
原文 読み 意味
すべて男も女も悪ろ者は わづかに知れる方のことを残りなく見せ尽くさむと思へるこそ いとほしけれ 三史五経 道々しき方を 明らかに悟り明かさむこそ 愛敬なからめ などかは 女といはむからに 世にあることの公私につけて むげに知らずいたらずしもあらむ わざと習ひまねばねど すこしもかどあらむ人の 耳にも目にもとまること 自然に多かるべし さるままには 真名を走り書きて さるまじきどちの女文に なかば過ぎて書きすすめたる あなうたて この人のたをやかならましかばと見えたり 心地にはさしも思はざらめど おのづからこはごはしき声に読みなされなどしつつ ことさらびたり 上臈の中にも 多かることぞかし
02116/難易度:☆☆☆
すべて/をとこ/も/をむな/も/わろもの/は わづか/に/しれ/る/かた/の/こと/を/のこり/なく/みせ/つくさ/む/と/おもへ/る/こそ いとほしけれ さむし/ごきやう みちみちしき/かた/を あきらか/に/さとり/あかさ/む/こそ あいぎやう/なから/め などかは をむな/と/いは/む/から/に よ/に/ある/こと/の/おほやけ/わたくし/に/つけ/て むげ/に/しら/ず/いたら/ず/しも/あら/む わざと/ならひ/まねば/ね/ど すこし/も/かど/あら/む/ひと/の みみ/に/も/め/に/も/とまる/こと じねん/に/おほかる/べし さる/まま/に/は まんな/を/はしりかき/て さるまじき-どち/の/をむなぶみ/に なかば/すぎ/て/かき/すすめ/たる あな/うたて この/ひと/の/たをやか/なら/ましか/ば/と/みエ/たり ここち/に/は/さしも/おもは/ざら/め/ど おのづから/こはごはしき/こゑ/に/よみ/なさ/れ/など/し/つつ ことさらび/たり じやうらふ/の/なか/に/も おほかる/こと/ぞ/かし
(左馬頭)「総じて男でも女でも、半端者は、わずかに知っている分野の事柄を知れる限りみな、さらけ出そうと意図しているのがなんともざまの悪いことだ。三史五経や専門的な教学をつぶさに体得しようなどとすればかわいげがないが、どうして女だからといって世の中の出来事を公私にわたり、むげにしらをきめたり半端な理解ですまされたりしましょう。強いて習い覚えようとしないでも、すこしく才覚のある人なら耳目にとまる事柄が自然と多いはずですよ。しかしそうなると生覚えのまま漢字をさらさらと書きつづり、そうすべきでない女同士の手紙に、半ば以上も漢字を使ったりするのは、なんとも見苦しくて、この人に優美さが備わっていればと思われます。当人はさほど気にかけていないでしょうが、受け取る側は自然とごつごつ強張った声で読まされるはめになるなど不自然さが先立ちます。身分の高いご夫人方の中にもよくあることですが。
大構造と係り受け
すべて男も女も悪ろ者は わづかに知れる方のことを残りなく見せ尽くさむと思へるこそ いとほしけれ 三史五経 道々しき方を 明らかに悟り明かさむこそ 愛敬なからめ などかは 女といはむからに 世にあることの公私につけて むげに知らずいたらずしもあらむ わざと習ひまねばねど すこしもかどあらむ人の 耳にも目にもとまること 自然に多かるべし さるままには 真名を走り書きて さるまじきどちの女文に なかば過ぎて書きすすめたる あなうたて この人のたをやかならましかばと見えたり 心地にはさしも思はざらめど おのづからこはごはしき声に読みなされなどしつつ ことさらびたり 上臈の中にも 多かることぞかし
◇ 「などかは」→「あらむ」
◇ 「習ひ」「まねば/並列)→「ねど」
古語探訪
悪ろ者 02116
教養のない者。
いとほし 02116
見ていてつらいということで、心情語としては申し訳ない。心情語でない場合は見苦しい。
三史五経 02116
『史記』『漢書』『後漢書』と『詩経』『礼記』『春秋』『易経』『尚書』。
道々しき 02116
貴族社会の中で男子が出世するため必須の教学。
悟り明かさむ 02116
女が。主語は後続する主節で明らかにされる。
愛敬 02116
かわいげ。
などかは…あらむ 02116
反語で、どうして…でよいものか、よくはない。
世にあることの公私につけて 02116
左馬頭の発言「公私の人のたたずまひ善き悪しきことの目にも耳にもとまるありさまを…近くて見む人の聞きわき思ひ知るべからむに語りも合はせばや/02058」とあった。「近くて見む人」は本妻のこと。男社会で求められる教養、妻とも共有したい願望がうかがえる。
むげに…否定語 02116
まったく…ない。否定を強める働き。
いたらず 02116
必要な基準に達していない状態。
わざと 02116
意図して、取り立てて。
習ひまねばねど 02116
「習ふ」は師について教えを受ける。「まねぶ」はそれを復習してひとりで真似してみる。
かど 02116
才能、能力。
耳にも目にもとまる 02116
聴覚や視覚に残る。記憶にとどまる。男兄弟が漢学を習っている横で自然と身についた自分の過去を意識していよう。
さるままに 02116
そうなるままに、多少才能のあるままに。
真名 02116
漢字。
さるまじき 02116
そうあるべきでない、即ち、漢字を使うべきでない。
どち 02116
(女)同士。
なかば過ぎて 02116
半部以上を漢字が占める。
あなうたて 02116
何と鬱陶しいことか。「あな」+「形容詞の語幹」で強調表現。
この人 02116
清少納言を意識して言うのだろう。
たをやか 02116
優美。
心地には 02116
手紙を出した方の気持ちを推し量る。
さしも 02116
それほどとは。自分の書いた手紙に漢字が多いことが、読み手にいやな思いをさせるとは。
「おのづから」以降は、読み手の心理を推測する。
こはごはしき 02116
ごわごわしている。無骨だ。
なされ 02116
動詞の連用形につく「なす」は無理に…させる。
ことさらび 02116
わざとらしい。不自然さが目立つ。
上臈 02116
後宮内の高貴な(女性)。