式部がところにぞけ 帚木10章01
- 1. 原文 読み 意味
- 1.1. 大構造と係り受け
- 1.1.1. 古語探訪
- 1.1.1.1. けしきある 02113
- 1.1.1.2. すこしづつ 02113
- 1.1.1.3. 下が下 02113
- 1.1.1.4. なでふことか…はべらむ 02113
- 1.1.1.5. まめやかに 02113
- 1.1.1.6. 文章生 02113
- 1.1.1.7. かしこき女 02113
- 1.1.1.8. 例 02113
- 1.1.1.9. 左馬頭の申したまへる 02113
- 1.1.1.10. 公事 02113
- 1.1.1.11. 世に住まふべき心おきて 02113
- 1.1.1.12. 才の際 02113
- 1.1.1.13. なまなまの 02113
- 1.1.1.14. 博士 02113
- 1.1.1.15. 口あかす 02113
- 1.1.1. 古語探訪
- 1.1. 大構造と係り受け
原文 読み 意味
式部がところにぞ けしきあることはあらむ すこしづつ語り申せ と責めらる 下が下の中には なでふことか 聞こし召しどころはべらむ と言へど 頭の君 まめやかに 遅し と責めたまへば 何事をとり申さむと思ひめぐらすに まだ文章生にはべりし時 かしこき女の例をなむ見たまへし かの 馬頭の申したまへるやうに 公事をも言ひあはせ 私ざまの世に住まふべき心おきてを思ひめぐらさむ方もいたり深く 才の際なまなまの博士恥づかしく すべて口あかすべくなむはべらざりし
02113/難易度:☆☆☆
しきぶ/が/ところ/に/ぞ けしき/ある/こと/は/あら/む すこし-づつ/かたり/まうせ と/せめ/らる しも/が/しも/の/なか/に/は なでふ/こと/か きこしめし/どころ/はべら/む と/いへ/ど とう-の-きみ まめやか/に/おそし/と/せめ/たまへ/ば なにごと/を/とり/まうさ/む/と/おもひ/めぐらす/に まだ/もんじやう-の-しやう/に/はべり/し/とき かしこき/をむな/の/ためし/を/なむ/み/たまへ/し かの むま-の-かみ/の/まうし/たまへ/る/やう/に おほやけごと/を/も/いひ/あはせ わたくし/ざま/の/よ/に/すまふ/べき/こころおきて/を/おもひめぐらさ/む/かた/も/いたり/ふかく ざえ/の/きは/なまなま/の/はかせ/はづかしく すべて/くち/あかす/べく/なむ/はべら/ざり/し
(頭中将)「式部のところにこそ変わった話があるだろう。少しずつ順にお話し申し上げよ」と急き立てになる。「下の下の分際では、どういう内容をもってお聞きがいある話といたせましょう」と言うが、頭中将の君はまじめな顔で「遅いぞ」と詰め寄りになるので、どんな話を持ち出し申そうかと思案したのちに、先に左馬頭の申されましたように、公事をも相談し、私的な生活面での役立つ心得をおもんぱかる点でも造詣深く、学問の程はなまなかの博士をば顔色なからしめず、いっさい口をはさむ余地を与えないのでした。
大構造と係り受け
式部がところにぞ けしきあることはあらむ すこしづつ語り申せ と責めらる 下が下の中には なでふことか 聞こし召しどころはべらむ と言へど 頭の君 まめやかに 遅し と責めたまへば 何事をとり申さむと思ひめぐらすに まだ文章生にはべりし時 かしこき女の例をなむ見たまへし かの 馬頭の申したまへるやうに 公事をも言ひあはせ 私ざまの世に住まふべき心おきてを思ひめぐらさむ方もいたり深く 才の際なまなまの博士恥づかしく すべて口あかすべくなむはべらざりし
◇ 「かの」→「公事」「私ざま/「馬頭の申したまへるやうに」は挿入句)
◇ 「公事をも言ひあはせ」「私ざまの世に住まふべき心おきてを思ひめぐらさむ方もいたり深く」:並列関係(Aも、Bも)
古語探訪
けしきある 02113
趣向がある。みなの興味をひくような変わった話。妻選びは大変だという一応の結論がついたので、話柄を少し転換する。
すこしづつ 02113
結果として式部丞は、変わった話をひとつしか持ち合わせていなかったけれど、頭中将の考えでは、色々な話を少しずつ語らせることを意図していた。
下が下 02113
階級の中で、上の品、中の品、下の品、それぞれの女性論がこの夜の話題。自分は下の下の階級なので、上の上の方々に満足いただけるような話はないとの弁。もちろん、一種の社交辞令。話したくて出番を待っていたが、身分が高くないので議論に口を挟まず控えていたのである。
なでふことか…はべらむ 02113
反語を導く。どのくらいことがありましょう、少しもありません。
まめやかに 02113
まじめに。本気で。頭中将と藤式部丞の身分の違いを感じさせるやりとりだが、社交辞令は捨て置いて早く本題に入れという勧めであろう。頭中将にしても、一言も発しない藤式部丞が何か言いたげにしているのは見て取っていたであろう。
文章生 02113
大学寮で文章道(もんじゃうどう)を学ぶ学生(がくしょう)の身分ながら、式部省の試験に合格した進士(しんし)。
かしこき女 02113
単に利発なというだけでなく、相手をかしこまらせるような女。
例 02113
典型。極端な例。
左馬頭の申したまへる 02113
左馬頭の発言「公私の人のたたずまひ善き悪しきことの目にも耳にもとまるありさまを…近くて見む人の聞きわき思ひ知るべからむに語りも合はせばやとうちも笑まれ涙もさしぐみもしはあやなきおほやけ腹立たしく心ひとつに思ひあまることなど多かるを何にかは聞かせむと思へば/02058」を指す。
公事 02113
政治について。また貴族社会の中で活躍することについて。
世に住まふべき心おきて 02113
「わが両つの途歌ふ」に説かれるているような訓戒。「心おきて」は心構え。
才の際 02113
学識。
なまなまの 02113
未熟な、中途半端な。
博士 02113
ここでは大学寮で文章道(もんじゃうどう)を教えた文章博士(もんじゃうはかせ)を指す。
口あかす 02113
相手に口を挟ませる。