その恨みましてやら 020

追われた更衣の恨みはまして晴らしようがございません。
この御子三つになり 021

この御子が三才におなりの年、御袴着の儀式は、第一皇子がなさったものに劣らず内蔵寮(くらづかさ)や納殿(おさめどの)の財貨を尽くして、盛大に催されました。
それにつけても世の 022

そうした帝のなされようにつけても世間では逆順のそしりばかりが聞かれましたが、この御子のご成育あそばされてゆくお顔立ちや趣味のよさは、たぐい稀れで賞賛せずにはおれないようにいらっしゃるのを、誰も憎み切ることはおできになれず、
ものの心知りたまふ 023 ★☆☆

ものの本質を見抜いておられるお方は、こんな方も世に生れて来られるものかと、常軌を超えた相に信じがたいと目を瞠はっておられました。
その年の夏 御息所 024

その年の夏、御息所は死を予感するほどに病んで里に下がろうとなさるが、帝はいっこうに暇を与えようとなさらない。