うときひとにみえば 02-097

2021-01-14

疎遠な人に顔を見られたらと通は解釈されているが、行動様式が「もとより思ひいたらざりけること」と「後れたる筋」の二段階(気持ちと実際の行動)に分かれていたことと対照をなす表現。ここも気持ち「憚り恥ぢ」と行動「わりなく思ひつくろひ」に分かれると考える。醜さに対して疎い女だと見られては。こうしたことに対する妻としての得がないと、お付きの女房たちが陰口をたたき、家の統制がとれなくなる。疎遠な(縁故でない)人に顔を見られるというのは、通常の女性の意識であって、ここでわざわざとりあげることではない。


この女のあるやう もとより 思ひいたらざりけることにも いかでこの人のためにはと なき手を出だし 後れたる筋をも なほ口惜しく見えと思ひはげつつ とにかくにつけて ものまめやかに後見 つゆにてもに違ふことはなくもがな思へりしほどに 進める方と思ひしかど とかくなびきてなよびゆき 醜き容貌をも この人見や疎まれむと わりなく思ひつくろひ 疎き人に見えば 面伏せにや思はむと 憚り恥ぢて みさをにもてつけて見馴るるままに 心もけしうはあらずはべりしかど ただこの憎き方一つなむ 心をさめずはべりし

この女のやりは、もともと、考え至らなかったことでも、どうかしてこの人のためにはとを尽くすし、人に劣ることでも肝な点だけは何とかがっかりさせぬようして励んだりと、なにかにつけ誠実そのものといった世話焼きをし、いささかも夫のに違うことがないようにと思っている様子からすると勝ち気な女だと思っておりましたが、何かとこちらの意のままになびく様子であったし、醜い容貌にしてもこの人に見られたら疎まれてしまうのではないかとひどく恐れて化粧をし、醜さに鈍感な女だと人に思われては夫の面目をつぶすのではないかと一歩さがって遠慮するなど、妻の分を堅く守り努める様子を慣れ親しんでいくうちに愛情も相応にわいて来もしましたが、ただこのにっくきあの一点だけは我慢がなりませんでした。

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