けり ける けれ 01-080

2021-04-13

「若き人々…たまはぬなりけり」の部分は、時間軸が遡るとの意見がある。「けり」の過去性 継続性に着目するのであろうが、「けり」には伝聞の働きもある。命婦に対しては、帝の勅使である手前、いつかは若宮を宮中に行かせる心積もりでいることと伝えたが、実際のところは母君はそれほど参内に熱心ではないらしい、と語り手が伝聞として説明している部分とも解釈できる。時間をが遡るとの説明では、なぜ時間軸に沿って書かなかったのかの疑問が残る。野分の場面にしても、命婦と母君のやりとりは直接話法をとっているが、実際には数十年前の事柄で、伝聞内容を直接話法にしたものである。直説法と間接法をとりまぜることで、過去を今に呼び戻しながら物語を進めているのであろう。


かく忌ま忌ましき身の添ひたてまつらむも いと人聞き憂かるべし また見たてまつらでしばしもあらむは いとうしろめたう思ひきこえたまひて すがすがともえ参らせたてまつりたまはぬなりけり

このように不吉な身が付き添い申すのもまことに世間での通りが悪かろうし、と言ってお顔を拝み申さずしばしもいるなど全く気が気ではなかろうと、ご案じ申し上げて、すんなりとは参内させてお上げにはなりませんでした。

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