すぐしたまひつる すぐしたまいつる すごしたまいつる 過ぐしたまひつる 過ぐし給ひつる 01-054
お過ごしになってきた。ここまでは桐壺更衣の生前の様子を忍んでいる。逆接の「に」を補えば、前後の文脈がはっきりする。
やもめ住みなれど 人一人の御かしづきに とかくつくろひ立てて めやすきほどにて 過ぐしたまひつる 闇に暮れて臥し沈みたまへるほどに 草も高くなり 野分にいとど荒れたる心地して 月影ばかりぞ 八重葎にも障はらず差し入りたる
母君は夫を亡くしたやもめの身ながら、娘一人の養育のためにとかく邸内は数寄を凝らし、世間に恥ずかしくない暮らしぶりをして来られたましたが、娘を失ってからは悲嘆のあまり床に臥せ塞ぎ込んでしまわれたため、草も伸びほうだいでその上今日の野分で益々荒れた感じがして、月の光だけが八重葎にもさえぎられずに射し込んでおりました。