君は心づきなしと思 空蝉01章03
原文 読み 意味
君は心づきなしと思しながら かくてはえ止むまじう御心にかかり 人悪ろく思ほしわびて 小君に いとつらうも うれたうもおぼゆるに しひて思ひ返せど 心にしも従はず苦しきを さりぬべきをり見て 対面すべくたばかれとのたまひわたれば わづらはしけれど かかる方にても のたまひまつはすは うれしうおぼえけり
03003/難易度:☆☆☆
きみ/は/こころづきなし/と/おぼし/ながら かくて/は/え/やむ/まじう/みこころ/に/かかり ひとわろく/おもほし/わび/て こぎみ/に いと/つらう/も/うれたう/も/おぼゆる/に しひて/おもひかへせ/ど こころ/に/しも/したがは/ず/くるしき/を さりぬべき/をり/み/て たいめん/す/べく/たばかれ/と/のたまひ/わたれ/ば わづらはしけれ/ど かかる/かた/にて/も のたまひ/まつはす/は うれしう/おぼエ/けり
君はいけ好かぬ女だと思われながらも、このままでは諦め得ようがないと深く御心にかかり、みっともないほど思い悩んだ上、小君に、「まったくむごくも忌々しくも思われるゆえ、無理に思いを断とうとすれど、思うにまかせず苦しくて、適当なおりをみて、対面できるようはからっとくれ」と、たびたびご命じになられるものだから、難儀なことではあるが、このような恋の手引き役でさえ、ご用勤めにお側にはべらせになることを、小君はうれしく思えのるだった。
君は 心づきなしと思しながら かくてはえ止むまじう御心にかかり 人悪ろく思ほしわびて 小君に いとつらうも うれたうもおぼゆるに しひて思ひ返せど 心にしも従はず苦しきを さりぬべきをり見て 対面すべくたばかれとのたまひわたれば わづらはしけれど かかる方にても のたまひまつはすは うれしうおぼえけり
大構造と係り受け
古語探訪
心づきなし 03003
心につくことがない、すなわち、気に入らない。
かくてはえ止むまじう御心にかかり 03003
このように動詞句が重なる表現は、その動詞句同士がどんな関係であるかを考えることが大切である。この場合、「かくてはえ止むまじう」は御心にかかった内容である。「……できそうもなく御こころにかかり」といった訳は現代語として馴染まない。
人悪ろく思ほしわびて 03003
これも動詞句の重なり。ここは「思ほしわぶ」の内容が「人悪ろく」と一般に解釈されているが、思いわびる様子が人からみっともなく見えるということ。
うれたう 03003
うれたしの音便。意味は忌々しい。
思ひ返せ 03003
思っていることをひっくりかえす。止めようと思う。
心にしも従はず 03003
「心」は自分の中心、意思、主体。それに気持ちが従わない。
さりぬべき 03003
対面するのによい、適当な。
かかる方にても 03003
恋の手引き役であっても。