限りあれば例の作法 桐壺04章03

2021-04-18

原文 読み 意味

限りあれば 例の作法にをさめたてまつるを 母北の方 同じ煙にのぼりなむと泣きこがれたまひて 御送りの女房の車に慕ひ乗りたまひて 愛宕といふ所に いといかめしうその作法したるに おはし着きたる心地 いかばかりかはありけむ

01038/難易度:★★☆

かぎり/あれ/ば れい/の/さほふ/に/をさめ/たてまつる/を はは-きたのかた おなじ/けぶり/に/のぼり/な/む/と/なき/こがれ/たまひ/て おほむ-おくり/の/にようばう/の/くるま/に/したひ/のり/たまひ/て おたぎ/と/いふ/ところ/に いと/いかめしう/その/さほふ/し/たる/に おはし/つき/たる/ここち いかばかり/か/は/あり/けむ

規則のあることだから作法どおりに葬って差し上げるが、母君は同じ煙に乗ってあの世へ行ってしまいたいと泣きこがれになり、葬送の女房の車に無体にお乗りになって、愛宕というおごそかに葬儀が執り行われている土地へお着きになったお心持ちは、どのようなものであったでしょうか、

文構造&係り受け

主語述語と大構造

  • いかばかりかはありけむ 五次元構造

〈限り〉あれ 〈[更衣の遺体]〉例の作法にをさめたてまつる 〈母北の方〉同じ煙にのぼりなむ@と泣きこがれたまひて 御送りの女房の車に慕ひ乗りたまひて 愛宕といふ所 いといかめしうその作法したる おはし着きたる〈心地〉 いかばかりかはありけむ

助詞と係り受け

限りあれば 例の作法にをさめたてまつるを 母北の方 同じ煙にのぼりなむと泣きこがれたまひて 御送りの女房の車に慕ひ乗りたまひて 愛宕といふ所に いといかめしうその作法したるに おはし着きたる心地 いかばかりかはありけむ

  • 限りあれ→例の作法にをさめたてまつる+→(母北の方(同じ煙にのぼりなむ)と泣きこがれたまひて・御送りの女房の車に慕ひ乗りたまひて→愛宕といふ所・いといかめしうその作法したるにおはし着きたり)+心地いかばかりかはありけむ
  • 」:逆接を表す接続助詞が使われている理由は、当時の風習として、死者より目上の者(この場合は母という立場)が葬列に加わることはタブーであったので、それに反してという意識が語り手にあるからである。「母の奇矯さ」を参照ください。
  • と泣きこがれたまひ・御送りの女房の車に慕ひ乗りたまひ/並列→おはし着きたり/同じ主体の動作が連続する場合には、敬語は最後だけに用いるのが一般的だが、「たまひて」「たまひて」と畳みかけるように繰り返すことで、母北の方のエキセントリックさを話者が強調しているのだろう。並列としてもよいが、言い直し、言い足しと考えればわかりやすい。「」は背景描写。
  • 愛宕といふ所・いといかめしうその作法したる:並列としてもよいが、前者の言い直し、言い足しと考えればわかりやすい。文法用語では「たる」は同格の準体用法となる。

「例の作法にをさめたてまつるを」→「母北の方…おはし着きたり」


「同じ煙にのぼりなむと泣きこがれたまひて」「御送りの女房の車に慕ひ乗りたまひて」:特殊な対がおかしみを誘う


「いかばかりかはありけむ」:語り手による母北の方に対する心情推量

限りあれ 例作法をさめたてまつる 母北の方 同じ煙のぼり泣きこがれたまひ 御送り女房慕ひ乗りたまひ 愛宕いふ所 いといかめしうその作法したる おはし着きたる心地 いかばかりありけむ

助詞:格助 接助 係助 副助 終助 間助 助動詞

助動詞の識別:な む たる たる けむ

  • :強意・ぬ・未然形
  • :意思・む・終止形
  • たる:存続・たり・連体形
  • たる:存続・たり・連体形
  • けむ:過去推量・けむ・連体形
敬語の区別:たてまつる たまふ 御 たまふ おはす

限りあれば 例の作法にをさめたてまつるを 母北の方 同じ煙にのぼりなむ と泣きこがれたまひて 送りの女房の車に慕ひ乗りたまひて 愛宕といふ所に いといかめしうその作法したる に おはし着きたる心地 いかばかりか はありけむ

尊敬語 謙譲語 丁寧語

古語探訪

御送りの女房の車に慕ひ乗りたまひて 01038:母の奇矯さ

葬送には、目上の者は参列しないのが慣わしなので、母宮の行動は当時の行動様式から考えると奇矯なものである。しかし、式部は、娘の死が度外れた行動をとらしむることを奇矯とはとらず、同情をもって描いている。これは当時にあっては特異な才能である。清少納言は弱者を好奇な目で見る目はもっているが、同情はしない(同情することはヒエラルキーを逆転させることだから)。万葉の古代世界はこの点おおらかである。「母北の方なむいにしへの人のよしあるにて(母は家柄の古い教養豊かなお方で)/01006」と響きあう。

いかめしう 01038

内部のエネルギーが外にほとばしり出る様子。母のイメージしていたよりも、葬儀の規模が壮大である。圧倒的であることに加えて、「同じ煙にのぼりなむ」と言ってはみたが、赤々とすごい炎を上げて燃え上がる厳めしいほむらを見て、気持ちが萎縮したであろうことが読み取れる。帝の情愛を受けるということは母の想像に余るのである。

限り 01038

かぎること、ここまではよくてここからはだめだというルールが原則。規則。

をさめ 01038

火葬すること。

こがれ 01038

身がやけ焦がれるほど恋しく思う。火葬にかける。

愛宕 01038

今の六道珍皇寺(京都市六条大和小路)のあたり。

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